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需要調査と作り始めるタイミング

リーンスタートアップという仮説検証を繰り返す新規事業の手法があります。

これは新規事業開発の考え方として必読の内容なんだけど、小さく作ってさっさとリリースする手法であると同時に、製品を作る前に顧客を探せという手法でもあるのです。

理想としては、需要調査で潜在顧客が見つかり、小さな製品を素早くリリースするという流れなんだけど、いつまでも仮説検証を続けて、なかなか製品を作り始めないという落とし穴がある。

というか、リーンスタートアップを勉強した後に僕自身がハマった落とし穴で、あるあるじゃないだろうか。

リーンスタートアップの父的な存在で顧客開発モデルを広めたスティーブブランクも、仮説検証のインタビューが十分終わり製品開発を始めてよい時期なのに、この落とし穴にハマる生徒がいるよとブログで書いてた。

この落とし穴にハマる原因は恐怖が関係してる。

需要があるかわからない恐怖

リーンスタートアップ始めて知った時は、「おお、この手法通りにやれば簡単やないか。素晴らしい!」と気分が乗ってくる。

というのも、アプリやサービスを作る時、一番の心配事は苦労して作っても誰も使ってくれないんじゃないかという恐怖です。

人間誰しも無駄なことはしたくないもんです。作る過程事態が楽しいからそれ事態が報酬だという気持ちもあるが、結果はまったくいらないと言う奇特な人はまずいない。

やっぱ成功する希望を心にせっせとモノ作りをするはずなんですよ。この誰しもが持つ恐怖感により、いつまでも顧客を探し続け、まだ確証が持てないからもうちょいユーザーインタビュー続けよっか、となってしまうやつです。

僕はLisgo作る前に、自分が欲しいアプリでユースケースもばっちしイメージ出来てたのに、だらだらインタビュー繰り返してた苦い記憶があります。なかなか「それ凄い欲しいよ!」という人が見つからないなあと。

でも、作ってとりあえずリリースしたら、「これは凄くいい!」と言ってくれる人が勝手に集まってきたので、この場合、逆に時間を無駄にしてた気がする。

作り始めるタイミング

じゃあ、どのタイミングで作り始めればいいのよ?というのが自然な疑問だけど、残念ながら明確な方程式なんてないので難しい。

あえて言うなら、ユーザーの問題とそれを解決する製品アイデアがある程度理解できている時。さっさとリリースしたほうが、ターゲットユーザがあちらから集まってきてくれる事も多い。

例えば、自分がユーザーである製品の場合、ユーザを探すことに時間を使うより、まずはリリースして、その製品のよさや使い方を広める工夫に時間を使ったほうがよい。

実際に何人の人が使ってくれるか、お金払うかはリリースしないとわからないし、インタビューの時に反応がよくても、製品を前にするところっと意見が変わるもんです。

ただ、もちろん、解決する問題をハッキリ理解してない時は、市場調査を先にしたほうが効率いい。

Taxnote作る前は、自分が確定申告の帳簿入力をアプリでやりたいという明確なニーズを持ってたけど、申告制度や、人気ソフトの使われ方は知らなかったので、アプリの作り始める前にかなり研究しました。

実際に自分が確定申告を済ませるまでの流れで、どこが面倒な部分か、アプリを作ったとしても、致命的な欠陥を見通してないかなどを調査しました。

時間の投資効果で決めればいい

結局は、市場調査にかかる時間と製品作る時間のトレードオフで考えればいいんです。

ターゲットユーザーを探して、アポ取って、インタビューする時間がたいしてかからない環境ならリスクも低い。普通は苦労するけど。

そして、製品作り始める段階では、どの機能が一番早く作れるかではなくて、どの機能が一番重要かをまず先に考える。

そのプロダクトに需要があるかどうかを検証するにはどの機能が必要かを考え、その最低限必要な機能からリリースして、仮説検証するまでの時間を可能な限り短くする。

結果的に、その他のナイスな機能は後回しになると思います。その時々で検証部分を決めて、小さく進んで行く。

向き不向き

リーンスタートアップが向く製品と向かない製品があるので、向かない製品に無理して応用することはできない。

例えば、ガンの特効薬とか痩せる薬に市場調査なんていらない。需要があるのは明白だから。重要なのは、有効な製品を開発できるかどうかであり、そこに時間使えばいいわけです。

逆に、2014のベストニュースタートアップを受賞したProductHuntみたいに、メーリングリストから小さく始めたサービスは、まさに、リーンスタートアップがハマった事例。

どういった方法論でいくかは、その時の製品、趣向(目指すもの)によって変わるので、結局は最適だと思う方法を自分で考えてやるのがいい。一番ダメなのは、こう書いてあったからこの通りにやろうという姿勢なわけで。

ちなみに、ピーターティールのリーンスタートアップ批判について面白い洞察をしている記事があった。=>リーン・スタートアップ教をめぐる宗教論争


*家計簿読み上げのアプリ作ってます。自己紹介と過去ログはこちら

英語添削をUpwork(旧oDesk)にアウトソース

前々から海外へのアウトソースには興味があったんだけど、なんだかんだでずっとやってませんでした。

自分がアプリやサービス作る時は、企画、UIデザイン、プログラミング、サポート、マーケティング、アップデートと全部自分でやっているのもあり、なんでも自分でやりたがり症候群というのがある。

これはあまりよいことではないなとは思いつつ、どれも外注できない重要なことだよなあと今までやってきました。

しかし、以前聞いたスタートアップ系のPodcastでこんなことを言ってた。

「昔の自分にアドバイスするとしたら、一刻も早くアウトソースする能力を身につけろと言うだろう。昔の自分はすべて自分でやろうとしていたけど、アウトソースする事を覚えて世界が変わった。」

そうか、じゃあ、やってみたいな、と思うも、アプリ開発は改善の繰り返しだからアウトソースに向かないし、なにがいいかなと思っていたところ、ちょうどよい案件がありました。英語ブログ記事の添削です。

これならアウトソースにぴったりだし、そこまで高くなさそうだから練習にも最適。

英語ブログを書きたかった理由

そもそもなんで英語でブログ書こうと思ったかというと、ブログを書くとよいことがたくさんあるんですよ。まずは自分のアプリの宣伝ができるし、このブログ記事を読んでくれた人とひょんなことで繋がりができたりとか。

例えば、最近書いたこの記事はパッと見そんなバズってないけど、ロングテールで読んでもらえて、ここからTaxnote使い始めたっていう人がめちゃ多い。苦労して書いてよかった。

フリーランスの確定申告をぶっちゃける 1 – 青色申告と白色申告、手間も考慮した本当の費用対効果

自分はツール系の一回買い切りのアプリだから、ゲーム系の当たればでかいやつみたいに広告費をかけても回収できないんですね。なので、結局自分でこつこつブログを書くのがもっとも投資対効果が高いし、自分も文章を書くのが好きなのでぴったりです。

日本語に比べて、英語が読める人はだいたい10倍の人口がいると仮定すると、同じ時間でひとつの記事を書いたとしても、10倍の人に読んでもらえる可能性がある。そのぶん、10倍の競争率があるのも重要な点ではあるが。

外国人の開発者の友達が、たまたまMacProについて書いた記事がHackerNewsでバズってすげえPVになったという話を見てたのも理由です。そのPVは僕の日本語ブログ記事がはてぶでそこそこバズった記事と比較すると、桁がひとつ違いました。

そして、彼はせっかくバズったんだから、アプリのリンクも入れて宣伝しようと後から記事を編集したんだけど、その広告効果も文字通り桁が違いました。英語人口はすごい。

日本のAppStoreの売り上げだけで言えば日本とアメリカは大して変わらないけど、英語で人気が出ると、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、その他海外の英語が読める人達に訴求できるので、やはり、日本語に比べて10倍ぐらい違うのかなといった印象でした。

英語ブログを書いてみた

そこで、一年ちょい前ぐらいに英語ブログを書いてみた。

ネタはとりあえずこのブログで書いたものを英語化しようと思い、個人的に一番よい記事だと勝手に思っている下記を英語化してみた。確か、この時はネイティブの友達に自分が書いた英語を添削してもらった気がする。

ユーザーの意見にNOと言うのは大切だけど、実際にどう言うかが難しい
How do you say No to users without annoying them?

しかし、現実は甘くなく、日本語の記事はそこそこ読んでもらえたのに、英語ではほとんど読んでもらえなかった。HackerNewsでポストしてみたのではあるが。

とはいえ、海外のユーザフィードバック専門のコンサルの方から、「この文章はすごくよかったよ!」という個人的なメールをもらい、書いてよかったなとは思った。

TwitterやFacebookも日本語でやっているから、日本語だとある程度シェアした時の影響が違うのかなと思ったけど、やはり10倍の競争率も痛感。確かに、英語記事って質の高い文章がゴロゴロあるから、オリジナリティーがないと厳しい。

次は、ちょっと肩の力を抜いて、Lisgoという自分が初めて作ったアプリを競合の開発者がタダで紹介動画作ってくれた奇跡の出来事について書いてみた。

競合アプリの開発者が無料でプロモ動画を作ってくれた
My competitor made my app promo video for free

こっちはもう面倒だから、英語の添削もせず、変な文章でもいいだろと思って自分が書いたそのままでHackerNewsにポスト。

すると、珍しい出来事だったのか、英語でちょこっとバズった。36回ぐらいツイートされた。この数字だけ見ると、全然大したことないんだけど、日本語の記事を書いて36回ぐらいツイートされた記事に比べて、なにかが違った。数時間でのPV数の伸びの桁が文字通り違ったのです。

とはいうものの、やっぱちゃんと長い記事書くなら、添削してもらいたいなと思っていたので、oDesk使うかとなったわけです。

oDeskの使い方はここでは説明しないので、この記事が参考になるかも。
海外の力も借りよう!英語が苦手でもわかるクラウドソーシング「oDesk」の利用方法

Jobを投稿するとすぐ応募がきた

添削をお願いする前に、スペルと簡単な文法は最新のテクノロジーの力を借りることにしました。Gingerというツールを使って書いたので、単純なスペルや文法のチェックはそこまで必要ない状態にしておいた。

そして、だいたいoDeskの他のJobポストを参考に、タイトルと説明文に重要な項目は入れつつ、簡潔に書いて募集してみた。金額はとりあえず10ドル固定で。

内容はこんなもの。

タイトル: 僕のエッセイの変な英語表現を直してください。(5500words、スペルと文法はツール使って修正済み)

説明文: 下記のブログ記事を書いたので、修正お願いしたいです。英語表現はあなたのスタイルで自由に変えてもらってもよいです。

ここで失敗したのは、5500wordsという部分で、本当は1000wordsぐらいだった。英語の文字数の数え方を間違ってた。

それにもかかわらず、4人ぐらいからすぐに応募があった。この中には、10ドルでやってもいいよという人もいれば、20ドルならやるよという人もいたり。

その中で、文章構成の仕事の経験があるアメリカ人の女性が10ドルでやってくれるようなのでこの方に頼む事に。プロフィールを読むと、海外を放浪中で、その間にサクッとアルバイトするのにoDeskを使っているらしい。

初回はクレジットカードの認証に一週間もかかり、相手を待たせてしまったけど、認証が終わるとすぐ添削してくれてWordで送ってくれた。送られてきた文章を見ると、やっぱり自分の英文はいろいろ変な部分があったなあとよくわかり、勉強にもなりました。

ちなみに、添削してもらったブログ記事はこちら。

アプリ操作を単純解説した動画はコスパがとても高い
Making a simple video tutorial is one of the most cost-effective ways for your apps

日本語記事のほうはそこそこ読んでもらえたけど、英語のほうは全然読まれませんでした。HackerNewsでポストしただけなんだけど、なかなか厳しい現実。

しかし、10ドルでサクッと1000ワードの英文を添削してもらえるのは安いし、なにより添削してもらえるまでの時間が相当早かった。12時間以内だった気がする。このスピードにもすごく価値がある。

アウトソースの衝撃

今回の場合、僕の小学生レベルの英文がそれなりになればいいので、そこまでクオリティーを求めないのもあり、アウトソースがぴったりかもしれない。

次は実験的に5ドルで募集してみた。同じ1000ワードぐらいの文章、Gingerで基本スペルは修正ずみの形式で。

これは誰も応募ないかなと思っていたけど、驚くべき事に、1時間ぐらいで4人の応募が。今回はネイティブの人が一人で、フィリピンの人が二人、他の国の人が一人だった。

その中で、大学で言語学と文学の修士をとって、今はコンテンツライターでバイトしているというフィリピンの女性の応募の文章がすごくしっかりしていたので、この方にお願いすることに。契約が決まったらすぐ添削した文章を送れますよとも書いてた。

まあ、ネイティブに拘らなくてもよいかと思い、この方に依頼すると、ちゃんとした英文で速攻で添削してくれた。フィリピンとの時差はないのもあり、ガチで数時間以内に送ってくれた。慣れている人がやれば1000ワードぐらいならサクっと終わらせることができるのかもしれない。

こんな安くていいのかなとも思うけど、海外との物価の差、仕事の内容しだいではアウトソースとはここまで力を発揮するのかと、自分で体験してみないと実感できないことがたくさんありました。

アウトソースに負けないスキルをつけないといけないとも思うし、自分の能力のここに価値があるんですよと考えていても、それを求める人がいなければお金も発生しないしなあとか改めて感じた。

やる価値のある新しい事は、めんどくさがらずにやってみようと試したoDeskですが、価値のある体験でした。

アプリの説明文の翻訳、AppStoreのキーワード選定、SEO、海外のある業界のリサーチ、事務作業とかなど、いろいろ使えそう。個人的には99designsで、アプリのデザインとか頼んでみたい。


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アプリ操作の解説動画はコスパ高い

最近はもう動画の時代ですね。Twitter作ったジャックドーシーも、「ユーザに読ませるな。動画を見せろ。」と言ってます。

これ、直感的にまったくもって正しいというのはよくわかる。自分が新しい製品を調べる時も、説明文とか読むのがだるいからとにかく動画でまずはザックリ概要を掴みたい。

プログラミング学習も、かんたんな部分であれば、Youtubeで解説している動画をざっと見た方が参考書読むよりはるかに高速道路なんですよね。これは、アプリに初めて触れるユーザでも同じだと思う。

いくらスクショと解説記事が充実していても、アニメーションの連続でどの部分をタップして、どの画面でどう操作するかは、もうこれ、圧倒的に動画がわかりやすいんですよ。文字と動画では越えられない壁がある。

立派な動画作成は面倒

でも、動画って作るのが相当めんどいのです。

特にプロフェッショナルな動画となると、脚本、音声、編集など、ものすごく時間がかかる。特に僕みたいな予算も時間もない個人開発者としては、プロモーション動画を作るのは常に後回しにしてきた。

例えば、海外のサービスだとこんなステキ洒落おつな動画がいっぱいある。

こんな動画作ろうと思ったら、結構お金かかっちゃいますよ。。資金豊富じゃないとやってられない。

さらに、スタートアップだとステキ動画はそのまま資金調達時にも使えるから価値が高いんだろうけど、僕の場合はどんなアプリかを理解してもらえれば必要十分です。

そうは言っても、以前はこういう考えもありました。初めてのユーザには機能や操作方法ではなく、その製品で得られる体験を伝えないといけないと。

体験を伝える動画

体験を伝える動画って面倒なんですよ。まず数時間では作れない。

僕は以前、Voicepaperというテキスト読み上げアプリが人気出たから、このアプリで得られる体験をできる限り伝える動画を頑張って作ってみた。

これはこれでいいと思うんだけど、個人製作で撮影道具もiPadだったことを考慮しても、脚本、撮影、音楽、編集などでかなり時間かかった。時間も手間もかかるなら、こういうものを作るのは二の足を踏むし、どうしても後回しになりますよね。

ここまで時間かけて効果のほどはどうだったか。これは今でもよくわからない。効果測定を厳密にやるのも手間に見合わないし。

以前、競合アプリの開発者が無料でプロモ動画を作ってくれたという神様からのプレゼントみたいなこともありましたが、まあこんなことは一生で一回あるかないかです。

操作解説を撮影という選択肢

つまり、動画作成は効果的だけどコストが高いと今まで思っていたんだけど、これは間違っていたかもしれない。

製品の提供者側としては、どうせ動画を作るならショボく見えないようにできる限り立派なものを作りたい気持ちがあるけど、ユーザからしたら直感的にわかる説明動画をさっさと見て価値があるかどうかを判断したいはずなんですよ。

特にツール系のアプリだと用途は最初から認識してもらえている場合が多いから、あとは使いやすそうかどうかを伝えられればいい。

これにハッと気づいたのが、自分が新しいプログラミングの学習をしている時に使っていたドットインストールとか、Youtube動画でした。単純に操作をしながら声で解説する動画があるかないかで全然違うなと。

例えば、iPhoneアプリ作成の解説だとこんなの。

これって、単純に操作しながら喋っているだけなのに、テキストとスクショだけのヘルプには絶対かなわない圧倒的な情報量があるんですよ。

これだと。なんで今までやらなかったんだと。

これなら撮影とiMovieでの編集も含めて、数時間もあればできちゃう。それぐらいの時間ですむのに、あるとないとで相当違うからコスパ高いのも間違いない。

ユーザからの質問がある時、今まではできる限り分かりやすく説明するのが大変だったけど、ひとつ解説動画を作れば楽チンだ。返信する時は、簡単な説明した後、詳しくはこの動画のこの部分を参考にしてくださいと言えばよい。

3時間で作ってみた

というわけで、白色申告・青色申告の帳簿付けアプリ、Taxnoteの解説動画を作ってみた。

1:25~ 仕訳帳の編集方法
1:45~ 備考入力や電卓での計算
2:10~ 損益表での年別・月別・日別表示
2:40~ 勘定科目の並び替え・名前変更
3:25~ 科目・支払い方法の新規作成
4:00~ データの一括削除方法
4:55~ データ出力
7:15~ アップグレードについて

まずはウダウダと基本操作を説明しながらiPadで撮影。iMovieで編集して終わり。

編集作業は5分ごとに撮影したもの4つのクリップをくっつける。そこから、適当に字幕をつける。最後に、サクサク観れるよう、1.4倍速にして終わり。

めちゃカンタン!3時間ぐらいで終わった!

もちろんこの動画はアプリ内のヘルプページの一番上に置いて、上に書いた目次と一緒に使ってます。

短い時間で最大限の効果が出ることはなんだろなといつも考えているんですが、こ解説動画はもっと早くやればよかった案件なので、これから積極的に採用していきたいです。


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フリーランスの確定申告をぶっちゃける4 – 青色申告/複式簿記に苦労して、白色申告や青色申告/簡易簿記に比べていくらお得?

Taxnoteを宣伝するために書き始めた、フリーランスの確定申告ぶっちゃけシリーズですが、思ったより好評でついに4回目まできました。

本屋に行くと、「会計ソフトを使えば青色申告も楽チンですヨ♪」という甘い囁きが溢れています。ただ、実際僕がやってみると、「全然楽チンじゃないよ。。」という衝撃の面倒さだったので、3回まではそのへんを具体的に書いてきました。

手間はある程度説明したので、今回はリターンの部分に焦点を当ててみたい。

専門家への相談料、実際にどれだけ税金がお得になるかを数字でわかると、費用対効果を計算しやすくなるからです。

このシリーズの第1回で書いたことを、数字を使ってもっと掘り下げる形。

青色申告(65万控除)と白色申告のお得金額の違いはネットでシミュレーションとかあるんだけど、本当にコスパがいいのは青色申告(簡易簿記)を入れた計算機があまり見つからないんですよね。

書籍では青色/複式簿記(65万控除)と青色/簡易簿記(10万控除)の手間は会計ソフト使えば一緒だから65万狙おうと書いているけど、複式はかなり面倒で、簡易は白色と同じ簡単さだということをシリーズ2と3で説明しました。

だから、比べるべきは青色申告/複式簿記(65万控除)と青色申告/簡易簿記(10万控除)のパフォーマンスであり、この二つを主に比較します。

ちなみにこれ、65万控除と10万控除だから、そのまま50万円分お得ってわけじゃないんですよ。紛らわしいけど。

控除はあくまで税金計算する時に所得額から引き算できる額です。なので、最終的にいくらお得になるかって具体的にイメージできている人は少ないと思う。

例えば、複式簿記で年間50万円ぐらいお得になるんだったら頑張ってやろうかなって考えるかもしれない。

でも、「え、苦労してやっても年間で5万円程度しかお得じゃないの。。複式簿記のコスパ低すぎ。。手間と学習時間、税理士さんへのお金考えると全然割りに合わんわ。。」となるかもしれない。

本屋に並んでいる青色申告の本って、この一番重要な部分をあまり深く書いてないんですよ。単純に、「65万控除だからお得です、会計ソフト使えば楽だから頑張りましょう♪」みたいなノリがほとんど。

手間とリターンがイメージできないと無駄な努力をしてしまう恐れがあります。

ただ、最終的なお得金額って、所得金額を元にした所得税、健康保険料、住民税を考慮しないと出ない。これ結構計算が面倒なんです。

でも、ザックリとなら分かります。そして、フリーランスが手間とメリットの判断をするにはザックリで十分なので、ザックリ説明します。

ザックリ計算方法を紹介

今回は所得額によって変わってくる所得税、健康保険料、住民税を対象に計算。復興特別所得税は簡略化のため省く。

健康保険は住むところによって違うのでややこしいけど、”フリーランスのための青色申告2014年度版”で記載されている東京都大田区基準を使い、40歳未満として計算します。

まず、税金は売上から経費を引いたのが所得です。

売上 – 経費 = 所得

そして、所得のあとに控除額を引いたのが課税所得。税金は課税所得から計算されます。

所得 – 控除額 = 課税所得

控除額は、白色でも青色でも絶対もらえる基礎控除がまずあります。所得税の基礎控除は38万。住民税と健康保険の基礎控除は33万。

その他、年金に払った額とか、医療費が控除に入れられたり、いろいろありますが、今回は簡略化のためにスルー。年金分や、医療費分、健康保険料分などを控除に入れると、もっと所得が少なく押さえられるとイメージしてください。

今回の比較で重要なのが、白色、青色で違ってくる控除額です。白色だと0円。青色/簡易簿記で10万、青色/複式簿記で65万です。

この違いが最終的に所得税、健康保険料、住民税の3つに影響するので、結果的にいくらぐらいお得になるか。ここがテーマです。

というわけで、いくつかのケースを例に出して書いていきます。

ケース1 赤字だった時

売上 100万 – 経費 130万 = 所得 -30万


所得税
白色/青色ともに 0円

所得がないので所得税はすべて0円。


住民税
白色/青色ともに 0円 + 均等割4000円

所得がないので、住民税の所得割は0円。一律に払う必要がある均等割だけ。


国民健康保険
白色/青色ともに 0円 + 均等割41,400円

所得がないので、健康保険の所得割は0円。一律に払う均等割だけ。


@最終的に払う合計金額
白色 45,400円
青色/簡易簿記 45,400円
青色/複式簿記 45,400円

白色申告と青色申告で税額は一緒。ただ、赤字分を繰り越せるので、青色申告/簡易簿記(10万控除)がオススメ。

青色申告/複式簿記(65万控除)で記帳してても、所得がないので控除する部分がなく無駄骨となる。ちなみに、控除額は経費ではないので赤字繰越には役立たない。

ケース2 所得は33万だった

売上 133万 – 経費 100万 = 所得 33万


所得税
白色/青色ともに 0円

所得税の基礎控除38万円分があり、33万 – 38万はマイナスなので課税所得額は0。よって所得税は0円。


住民税
白色/青色ともに 0円 + 均等割4000円

住民税の基礎控除33万円分があり、33万 – 33万で課税所得額は0。均等割だけ。


国民健康保険
白色/青色ともに 0円 + 均等割41,400円

健康保険の基礎控除33万円分があり、33万 – 33万で課税所得額は0。均等割だけ。


@最終的に払う合計金額
白色 45,400円
青色/簡易簿記 45,400円
青色/複式簿記 45,400円

白色申告と青色申告で税額は一緒。この年の赤字分の繰越はないけど、以前の赤字分や開業費が残っているなら継続できる青色申告/簡易簿記(10万控除)がコスパ高い。

青色申告/複式簿記(65万控除)で記帳してても、所得がないので控除する部分がなく無駄骨となる。

ほかにも保険料や医療費などいろいろ控除を追加できれば、所得がもう少し多くても最終的に課税所得が0になりやすい。

ケース3 所得は150万だった

売上 300万 – 経費 150万 = 所得 150万


所得税
白色 56,000円
青色/簡易簿記 51,000円
青色/複式簿記 23,500円

所得税の基礎控除38万円。

白色の課税所得は150万 – 38万で112万。195万以下の税率は5%なので、白色だと56,000円。

青色/簡易簿記だと、112万 – 10万(簡易簿記の控除)で102万。税率5%で51,000円。

青色/複式簿記だと、112万 – 65万(複式簿記の控除)で47万。23,500円。


住民税
白色 11,7000円 + 均等割4,000円 = 121,000円
青色/簡易簿記 10,7000円 + 均等割4,000円 = 111,000円
青色/複式簿記 5,2000円 + 均等割4,000円 = 56,000円

住民税の基礎控除は33万円。150万 – 33万で白色の課税所得額は117万円。住民税は一律10%なので、11,7000円 + 均等割。

青色/簡易簿記だと、117万 – 10万(簡易簿記の控除)で課税所得は107,000円。税率10%の10,7000円 + 均等割。

青色/複式簿記だと、117万 – 65万(複式簿記の控除)で課税所得は520,000円。税率10%の52,000円 + 均等割。


国民健康保険
白色 97,812円 + 均等割41,400円 = 139,212円
青色/簡易簿記 89,452円 + 均等割41,400円 = 130,852円
青色/複式簿記 43,472円 + 均等割41,400円 = 84,872円

健康保険は地域によって違うし、かなりややこしいです。。

健康保険の基礎控除は33万円。150万 – 33万で白色の課税所得額は117万円。117万 x 6.02% (医療分)と117万 x 2.34% (後期高齢者支援分)で97,812円。

青色/簡易簿記だと、117万 – 10万(簡易簿記の控除)で課税所得は107万円。上記の税率で64,414円(医療分) + 25,038円(後期高齢者支援分)で89,452円。

青色/複式簿記だと、117万 – 65万(複式簿記の控除)で課税所得は520,000円。上記の税率で31,304円(医療分) + 12,168円(後期高齢者支援分)で43,472円。


@最終的に払う合計金額
白色 316,212円
青色/簡易簿記 292,852円
青色/複式簿記 164,372円

ついに複式簿記で苦労した意味が出てきました。青色/簡易簿記に比べて、13万円近くお得になっている。

白色と青色/簡易簿記なら素人でも申告できると思うけど、シリーズ3で説明したような理由から青色/複式簿記なら専門家に決算書の指導してもらわないときつい。

手間と専門家への相談料を考えると複式にするかは悩みどころのライン。

ケース4 所得は300万だった

売上 500万 – 経費 200万 = 所得 300万


所得税
白色 164,500円
青色/簡易簿記 154,500円
青色/複式簿記 99,500円

195万円~330万円の所得税率は10%。控除額は97,500円。


住民税
白色 271,000円
青色/簡易簿記 261,000円
青色/複式簿記 206,000円

住民税は一律10%なので計算式は変わらず。


国民健康保険
白色 264,612円
青色/簡易簿記 256,252円
青色/複式簿記 210,272円

計算式は同じ。


@最終的に払う合計金額
白色 700,112円
青色/簡易簿記 671,752円
青色/複式簿記 515,772円

今回は青色/簡易簿記と青色/複式簿記の納税額の違いは16万近く。ちょっと複式簿記のやる気が出てくる金額でしょうか。手間考えるなら微妙だなと思う人もいそうです。

ケース5 所得は500万だった

売上 700万 – 経費 200万 = 所得 500万


所得税
白色 496,500円
青色/簡易簿記 476,500円
青色/複式簿記 366,500円

330万円~695万円の所得税率は20%。控除額は427,500円。


住民税
白色 471,000円
青色/簡易簿記 461,000円
青色/複式簿記 406,000円


国民健康保険
白色 431,812円
青色/簡易簿記 423,452円
青色/複式簿記 377,472円


@最終的に払う合計金額
白色 1,399,312円
青色/簡易簿記 1,360,952円
青色/複式簿記 1,149,972円

ここまでくると、青色/簡易と青色/複式で21万円の違いが出てきました。これが多いと見るか、少ないと見るか。どうでしょう。

課税所得が多くないと複式簿記のメリットは少ない

さて、具体的にいくらお得になるかを数字でハッキリさせると、だいぶ見えてきたものがあると思います。

つまり、課税所得が多くない場合は、面倒な複式簿記をしてもメリットが少ないということです。ここが本屋に並んでいる青色申告の本にあまり書いていない真実だと思う。

今回は簡略化のために、医療費控除とか、年金や保険料の控除などは入れてないけど、それらも控除できる場合はさらに課税所得が低くなります。

しかし、一年間の所得金額がいくらになるかはその年の終わりになるまでわかりません。所得が多いなら複式簿記にしたいし、低いなら簡易簿記にしたい。でも、未来のことなんてわからないのが現実。

そんな貴方にオススメの方法があります。

手間とメリットを比べて、確定申告直前に簡易簿記か複式簿記を選ぶ方法

青色申告/複式簿記の一番面倒な部分は、仕訳帳の帳簿残高と、事業用口座の残高をぴったり合わせないといけないところです。これは、シリーズ3で説明したところで、特に事業用と個人用のクレカが同じならすごい面倒。

逆に言えば、それ以外はアプリを使えば結構楽。

Taxnoteを使って普段の経費をペチペチ記録すると、自動的に複式簿記で仕訳帳データが記録されていきます。事業用のクレカがあるならfreeeやMFクラウドなどのクラウド会計ソフトでもOK。

普段はアプリで経費をかかさず記録していき、確定申告前に一年間の所得金額をみて、青色/複式簿記で確定申告するか、青色/簡易簿記でするか決めたらいい。

つまり、確定申告直前に、複式簿記の一番面倒な口座と帳簿の数字を厳密に合わせる作業をやるかどうか、メリットを計算して判断するんです。

普段の経費はアプリで自動的に複式簿記で記帳されているから、65万控除を狙うなら残りの口座明細をみて数字合わせる作業をすればよいわけです。もちろん、その年の初めの届け出は青色申告(65万控除)で出しておく。

あまり所得がなくて手間に見合わないなと思ったら、その年は簡易簿記で申告すればいいのです。

普段のお金の流れを複式簿記で記帳してても、簡易簿記で申告することはもちろんできるし、簡易簿記だと帳簿が複式ほど厳密にしなくていいので、申告が一気に簡単になります。

手間以外にかかるコスト

事業をやるにあたってコスト意識を徹底するのは大切なことです。自分の時間が一番重要なので、手間とメリットの話をしてきましたが、最後にその他のコストの話を。

まず、青色申告/複式簿記(65万控除)を目指すなら、決算書作成の時だけは専門家に相談したほうがよい、全然楽チンじゃないからという話をしてきました。

最初は専門家に記帳指導だけしてもらって、一年に一回、決算書作成の時だけ仕訳帳データを渡して変なところがないか相談しながらやってもらうというのがよいです。

税理士さんの相場は知らないけど、知り合いがいるならその人にお願いするのもいいと思います。

僕は青色申告会でお願いしたので年会費が2万4千円でした。最初に記帳のキモを教えてもらい、あとは実質一年に一回、確定申告の時に行くぐらいです。

担当者との相性がもっとも重要な部分なので、近くの青色申告会でダメだと思ったら他の地域のところでも入会できるので試すとよいです。行くのは年に2,3回もないので、多少遠くてもいい人がいるところを探そう。

僕は最初に行ったところがすごく親身な方で、たくさんの質問に答えてくれて助かった。

レシートを送って記帳代行してもらうやつはもったいない。勘定科目覚えるのは最初だけだし、アプリがあればそこまで手間ではないし。ただ、レシートを貯めて一気にやると日付確認はさすがに大変なので注意。

後は、会計ソフトのお金ですかね。簡易簿記ならGoogleスプレッドシートなどの無料表計算ソフトでも十分だし、青色申告/複式簿記(65万控除)の決算書作成を自宅でやるなら”やよいの青色申告”などの会計ソフトが必要かも。

徹底的にコストカットしたいなら、青色申告会や税理士さんに記帳指導してもらい、会計ソフトは買わずにアプリでその日から記帳し始めるんですよ。そして、1年後の確定申告の時期にアプリで作成した仕訳帳データを持って行って、事務所で決算書を作成してもらう。

フリーランスがやる必要があるのは日々の経費を記録するぐらいなので、そこだけやれば決算書作成は任せるぐらいでちょうどよい。

青色申告会や税理士さんは2月中盤ぐらいから一気に忙しくなって予約が難しくなるらしいから、できるだけ空いている1月の間に行こう。

ついでにTaxnoteもよろしく。

 

*関連記事
確定申告を楽にする合理的な方法のまとめ
フリーランスの確定申告をぶっちゃける 1 – 青色申告と白色申告、手間も考慮した本当の費用対効果
フリーランスの確定申告をぶっちゃける 2 – 青色申告/複式簿記の鬼門、クレジットカードの仕分け問題
フリーランスの確定申告をぶっちゃける 3 – 青色申告/複式簿記の鬼門、個人用と事業用のクレジットカードが同じ場合
フリーランスの確定申告をぶっちゃける 4 – 青色申告/複式簿記に苦労したところで、白色申告や青色申告/簡易簿記に比べていくらお得になるの?


*家計簿読み上げのアプリ作ってます。自己紹介と過去ログはこちら

フリーランスの確定申告をぶっちゃける 3 – 青色申告/複式簿記の鬼門、個人用と事業用のクレジットカードが同じ場合

前回の記事、フリーランスの確定申告をぶっちゃける 2 – 青色申告/複式簿記の鬼門、クレジットカードの仕分け問題の続きを書いてみます。

前回の記事では、複式簿記でクレカの仕分けは厳密にやると凄い大変だから、通帳の引き落とし日を見ながらアプリを使うのが楽という話をしました。

ただ、それでも、個人用と事業用のクレカが同じ場合、預金口座の数字を合わせるために事業主貸とかめんどくさい仕分けがいろいろ出てくると書いたら、「そのへんを詳しく。。」と言われたので書いてみます。

個人用と事業用のクレカを分けろとは言うけれど

さて、個人用と事業用のクレカを分けないと複式簿記の記帳がいろいろと面倒になるという話なんですが、「じゃあ、分ければいいじゃん」という当然の疑問が出てくると思う。

しかし、個人と事業のクレカを分けるというのも、これはまたこれで面倒なのです。

フリーランスを始めたばかりの人だと、クレカをもう一つ作るのも審査あるし、いろいろなサイトで登録したクレカを、事業と個人で明確に区別できない場合もある。

つまり、口座を分けるのは面倒だけど、口座を分けないと複式簿記の記帳が面倒。どっちも面倒。

どうすんの?となった時、事業が大きくなるまではクレカは同じ人が大半だと思うので、その場合にどう記帳が面倒かを書くというのが今回のテーマです。

ちなみに、個人と事業の口座は分けるのが会計の原則なのですが、小規模な個人事業の場合、事業が大きくなるまで一緒でもいいよということらしい。

ここで当然のように僕が疑問に思ったのは、個人事業が小規模かどうかを具体的にどう判断すればいいんだということです。

本を読んでいても、具体的に”所得がいくら以下なら小規模とみなす”とかそういう記述は見当たりません。ここ、とても重要なとこなんですが、なんで説明がないんだと。

税務署に聞いてみたら、特に決まりはないのでケースバイケースらしい。

明確な基準がないから、事業内容とか総合的に判断してもらうしかないと。まあ、税務の事を勉強して思ったのは、特に個人事業だと明確な基準がない部分が多いのでしょうがない。

口座の数字を合わせる面倒さ

個人と事業のクレカが同じ場合、つまり、個人と事業で使う銀行口座も同じ場合は複式簿記の記帳が面倒です。

複式簿記で記帳する場合、銀行口座の通帳と仕訳帳の数字をぴったり合わせる必要が出てくるので、個人用と事業用のお金の出入りをいちいち仕訳しないといけない。

というわけで、今から面倒だということを説明するために、いくつかの例を書きます。

あらかじめ断っておきたいのは、この後の説明を読んでも、口座の数字を合わせる記帳方法は理解できないということです。なぜかというと、ルールと科目名が直感的に意味不明で、専門家のアドバイスを聞きながらじゃないと分かり難いからです。

なので、個人用と事業用の口座をひとつにした時の複式簿記がいかに面倒か。これだけをなんとなく理解してもらえたらOKです。

前回の記事で紹介したクレカの明細を見ながら、引き落とし日で記帳するやり方を前提として、銀行の通帳が下記のようだったとする。

2014/05/05 15,000円 事務所レンタル料
2014/05/05 80,000円 振替 カード引き落とし

この場合、事務所レンタル料を経費として計算して、

2014/05/05 地代家賃 15,000 / 普通預金 15,000

と普通に記帳できる。

でも、個人と事業のカードが一緒の場合、80,000円全部を事業に使ったわけではないですよね。明細を見ながら事業用の経費だけを記帳していって、個人用に使った金額は経費として記録していない。

例えば、80,000円の引き落としの中で、50,000円分が個人用に使って、30,000円分が経費として使った金額だとする。

明細を見ながら事業用に使った支払いは2つだと特定して下記のように記帳したとします。

2014/05/05 事務用品 20,000 / 普通預金 20,000
2014/05/05 交通費 10,000 / 普通預金 10,000

この場合、80,000円の引き落としが通帳にはあるのに、仕訳帳に記録されるのは30,000円分だけだから、数字が合わなくなります。

考え方としては、個人と事業で使っている口座はもともとは事業口座であり、個人用に使うお金は、事業用の財布から個人にわたす認識になる。

なので、通帳と仕訳帳の数字を合わせるために、カード払いで個人用に50,000円分は下記のように記帳しないといけない。

2014/05/05 事業主貸 50,000 / 普通預金 50,000

これで通帳の数字と仕訳帳の数字が合いました。お疲れ様です。

さて、複式簿記では通帳の数字と仕訳帳の数字をしっかり合わせないといけないけど、経費や個人用として使う現金を事業用の口座からわたす時も

2014/06/12 現金 50,000 / 事業主借 50,000

とかやらないといけない。もうなんだかよくわからなくなってきました。とにかく面倒で分かりづらい。事業主借とか、事業主貸とか、もう直感的にぜんぜん分かりづらくてクソUIすぎます。

ちなみに、この通帳と仕訳帳の数字を合わせる作業の面倒さはクラウド自動会計サービスを使っても一緒です。自動会計は通帳の記録から、勘定科目を自動判別して記帳してくれるということなので。

freeeやMFクラウドなど、クラウド自動会計ソフトは事業用のクレジットカードがある場合は相性抜群だと思うけど、個人と事業用のクレカ併用している人が使うと逆に混乱するかもしれない。

この作業は真面目に専門家に相談しながらやらないと、数字が合わなくなってめちゃくちゃになる。

適当に記帳していって、決算の時に無理やり数字を合わせるために事業主勘定を強引に使い、税務署に指摘されるとかもよくあるらしい。

それでも小規模な事業だったら税務署もちゃんとチェックしてないんですかねと聞いてみたら、最近はネットでの収入を申告してない人が凄く増えているので、税務署もそのへんかなり強化するとハッキリ明言しているとか。どうなんでしょ。

一番効率よさそうなのは、事業用のクレカを作る、クラウド自動会計で仕分け、現金部分はアプリで記録、クラウド会計がわかる専門家に決算書を作成してもらうことだと思う。

ただ、小規模な個人事業主だとクレカもわけないし、税理士へ依頼するとコスパが悪いから、どうしようっていうのがこのシリーズのテーマなんですね。

複式簿記での確定申告は難しい

というわけで、個人と事業のクレカを一緒にした場合、上記のようにアホみたいに難解になって、複式簿記の確定申告はぜんぜん簡単じゃないというのが僕の結論でした。

経費の記録はそんなに難しくないんだけど、通帳と数字を合わせる部分が面倒で、どこかしら変なところが出てくる。なので、初めての決算書作成だけは専門家のアドバイス聞きながらやらないと厳しすぎると思った。

ちなみに、いろいろな青色申告の本を読んでいて、一冊だけ、ウルトラ簡単な方法を提案している「簡単仕訳帳」でトクする青色申告」という本がありました。

小規模な個人事業主はすべて事業主勘定で済ませればよいというやり方で、事業用の仕分けをすべて事業主勘定で済ませるという方法。

例えば、経費となるお金をクレカで払っても、現金で払っても、すべて事業主勘定でやる。こんなの。

2014/06/12 交通費 2,000 / 事業主 2,000

僕は、「なんだこの簡単さは、他の本に書かれているやり方と全然違う。」と思い、青色申告会の担当の方に、「この方法でやってもいいですか?」と聞きました。

そしたら、いや、これはさすがに複式簿記の意味がなくなるからまずいんじゃないかな。。と言われ、そんなもんかと思って使ってないのですが、一応こんな本もあるよと紹介しておきます。

そこまでして青色申告(65万控除)複式簿記をする意味あるのか?

さて、ここで一番最初に書いた記事である、青色申告(10万控除)の簡易簿記のほうがコストパフォーマンスいいんじゃないか?という疑問にブーメランのように戻ります。

だって、簡易簿記だったら白色申告とほぼ一緒で、通帳の数字と仕訳帳の数字をチマチマ事業主勘定使って合わせるとかまったくいらない。スーパー簡単になる。

次は青色申告/簡易簿記(10万控除)と青色申告/複式簿記(65万控除)で、年間でどれだけお金がお得になるのかを具体的に分析し、複式簿記のコストパフォーマンスを計測したいなと思い、第4回も書きました。

フリーランスの確定申告をぶっちゃける 4 – 青色申告/複式簿記に苦労したところで、白色申告や青色申告/簡易簿記に比べていくらお得になるの?

ついでにTaxnoteもよろしく。

 

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*家計簿読み上げのアプリ作ってます。自己紹介と過去ログはこちら

フリーランスの確定申告をぶっちゃける2 – 青色申告の鬼門、クレジットカードの仕分け

前回の記事、フリーランスの確定申告対策をぶっちゃける 1 – 青色申告と白色申告、手間も考慮した本当の費用対効果の続きを書いてみます。

まず、前提として、これは複式簿記で記帳する青色申告の話です。簡易簿記の青色申告だと一気に簡単になるので、65万の控除いらない方はそっちがオススメ。詳しくは前回の記事を。

今回は、「青色申告/複式簿記の鬼門、クレジットカードの仕分け」についてです。

現金を持たなくてよくなるクレカ、最近はスイカ対応のコンビニもたくさんあって便利です。でも、便利なはずのクレカが複式簿記の仕分けで一気に鬼門となる。

これ、会計の本読んでも、厳密なやり方から簡易なやり方まであってどんどん混乱します。個人事業レベルが厳密な方法で全部記帳するのは現実的に不可能、ミッションインポッシブルじゃないかと本を破り捨てたくなります。

僕が専門家の方に相談した時、まっさきに聞いたのはここでした。

「クレカの仕分け方法がサッパリわからない。発生主義や現金主義などでも違いがあり、事業用と個人用のクレカがある場合もいろいろある。本やネットでもいろいろな仕分け方法が書かれているので、いったいどうすればいいでしょうか。」と。

簡単なやり方から、最低限ここまでやろうみたいなレベルまであり、100%の正解はないけど混乱状態からの参考になれば幸いです。

勉強して詰まったら、国税局の税務電話相談室を使おう。

青色申告/複式簿記のクレカ仕分けがアホみたいに面倒なんだけど?

まず、会計の本に書いている厳密な方法があります。これは、原則的に発生主義という形をとり、取引をした時点でのお金の記録を記帳する。現金主義はお金を払った時点で記帳するやり方。

フリーランスのために簡単に説明すると、現金主義 = 記帳がかんたん、 発生主義 = 記帳が面倒、という認識でよいと思います。白色申告や青色申告(10万控除)だと簡易簿記なので現金主義でよし。

でも、青色申告(65万控除)は複式簿記なので発生主義になります。

複式簿記(発生主義)でも、現金で経費となるものを買った時は楽なんです。例えば、2014年4月1日にフリープログラマのDavid松本さんが「よくわかるRuby」という参考書を現金で買ったらこうなります。

2014/04/01 新聞図書費 3,000 / 現金 3,000

かんたんですね。現金で払ってるので発生主義でも一回で済む。

しかし、しかしですよ。最近はアマゾンとか便利なものがあるし、本屋でもできるだけクレジットカードで支払い、現金を持たないのが現代っ子です。David松本さんが先ほどの本をクレカで買ったら話が変わります。

なぜなら、クレジットカードは使った時点で支払いは発生せず、一ヶ月後に口座からお金が引き落とされます。でも、発生主義だと取引をした時点で記録しないといけない。

なんか嫌な予感がしますね。

そうなんです、発生主義の原則に厳密に従ったら、本を買った日の記録と、クレジットカードの引き落としの日の記録を2回しないといけない。引き落とし日が翌月の27日だとこんな感じ。

2014/04/01 新聞図書費 3,000 / 未払金 3,000
2014/05/27 未払金 3,000 / 普通預金 3,000

アホかと。。日々の業務で忙しいDavid松本さんが、クレジットカードでなにかを買うたびに2回も記帳するなんて。無理ゲーじゃないかと。

最初の記帳一回ならアプリ使ってその場で記録すればいいけど、クレカの明細見てもう一回個別に記録するとか面倒すぎます。

青色申告の参考書とかには、「クレジットカードの支払いは、未払い金を使ってこう書きましょう♪」とか無邪気に書いてる。

David松本さんからすると、「こう書きましょうじゃないヨ!(怒) なんだこの生産性の低い作業は!これなら全部現金で払ったほうがマシだヨ!」と参考書を破り捨てたくなると思います。

という当然の悩みを僕も持っていたのですが、専門家の方に相談すると、確かにクレカの記帳をここまで厳密にするのは無理ゲーなので、引き落とし日に一気にやる方法でも現実にはOKらしいです。

クレカの記帳を一回でやる方法

上記の無理ゲー方式ではなく、落とし所として教えてもらったのがクレカの明細を見て、お金の引き落とし日に一回でやる方法。

例えば、クレカの明細がこんな感じだとする。

引き落とし日 2014年5月27日。

4月1日 アマゾン書籍 3,000円
4月3日 インターネットプロバイダ 5,600円
4月6日 アマゾン書籍 2,500円

この場合、日付はすべて引き落とし日にして、それぞれ一回の記帳でこう書いてよいと。

2014/05/27 新聞図書費 / 普通預金 3,000
2014/05/27 通信費 / 普通預金 5,600
2014/05/27 新聞図書費 / 普通預金 2,500

これなら一気に楽チンになります。特に日付が固定されているのがポイント高い。僕は毎月クレカの明細が届くと、アプリ片手に明細見ながらポチポチと一気にやってます。

この方式とTaxnoteがあればクレカ払いでもかなり楽なので、個人的にはいろいろ修正が手間だと感じたクラウド自動会計ソフトはやめて、Taxnoteで普段から記録 => やよいの青色申告(Win)に取り込んで決算書作成というやり方に落ち着きました。

決算書作成はさすがに専門家の方の意見を聞かないと難しいので、年に一回、確定申告の時期にアドバイスを受けながらやってます。

ちなみに上記のやり方でも、年度をまたぐ12月などは引き落としが来るのは次の年なので、その月だけは未払い金などを使って年度の調整をしないといけない。

ここも大した手間ではないので、専門家の方に相談しながら数字が合うようにやるのが吉です。

ほんとにこの方法でいいの?

確定申告の勉強をしてわかったのが、細かい部分に関しては専門家でも意見が分かれるということです。

例えば、この支払いは経費として認められるかなどは最たるもの。ある税務署の職員さんにOKと言われても、他の人はNGだということもある。

心配性な僕は一応、税務電話相談室に電話して、この方法でクレカの仕分けをしても、ちゃんと青色申告の65万控除もらえますか?ということを確認してみた。

すると、年度末などは支払いが翌年になるので、未払金で調整するよう気をつけてもらわないといけないけど、普段のクレジットカード払いの記帳はそのやり方で問題ないですよと言われた。

仕入れなどが発生しないフリーランスという前提で話したのもあり、個別ケースによって見解が変わるかもしれないので、少しでも疑問に思った部分は税務電話相談室を使おう。

それでも面倒な複式簿記

ちなみに、僕は個人で使うクレカと仕事用のクレカを分けてないので、複式簿記をやろうとするとやっぱり面倒なんです。

この部分の説明は長くなるので省くけど、普通預金口座の数字を合わせるため、事業主貸とかめんどくさい仕分けがいろいろ出てくる。(その3で解説してます。)

かといって、まだ小規模なので事業用のクレカを作るほどでもないし、スイカとか絡むとさらに面倒だ。これは事業用の交通費、これは個人だとか。

というわけで、そこまでして青色申告(65万控除)複式簿記にこだわらなくても、青色申告(10万控除)簡易簿記を選択したほうがコストパフォーマンスが高いのではという話を前回の記事でやりました。

複式簿記と簡易簿記の手間は全然違うからです。

まあ、複式で記帳すると事業の財務状況がハッキリ分かるけど、仕入れなど発生しないフリーランスが気にするのは何よりも手間でしょう。

そこで、青色申告(65万控除)と、青色申告(10万控除)、この二つを比べて、具体的な金額で計算するとどのぐらいお得になるのかという話をしたいです。

65万控除って、65万お得になるわけじゃなくて、65万円分の経費分をボーナスであげますってことなので。

結果、所得税、健康保険なども影響した後に年間で5万お得なのか、10万お得なのか、20万ぐらいお得なのか。そういう具体的にイメージできる額を明らかにすることによって、手間にあった費用便益分析がしやすいと思うのです。

なぜか、いろいろな本を読んでもこのへんを具体的に書いているのがなかった。それを第4回で書いているのですが、その前に、質問にあった、個人用と事業用のクレカが同じ場合の、複式簿記記帳の面倒さを説明する3回に続きます。

ついでにTaxnoteもよろしく。

 

*関連記事
確定申告を楽にする合理的な方法のまとめ
フリーランスの確定申告をぶっちゃける 1 – 青色申告と白色申告、手間も考慮した本当の費用対効果
フリーランスの確定申告をぶっちゃける 2 – 青色申告/複式簿記の鬼門、クレジットカードの仕分け問題
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*家計簿読み上げのアプリ作ってます。自己紹介と過去ログはこちら

使いやすいアプリを作る簡単な方法

使いやすいアプリを作るための、とても簡単で、確実な方法があります。

それは、ユーザの問い合わせに対応することです。具体的に言うと、問い合わせが気軽にできるようなUIにして、そこで得た情報源を元にUIを分かりやすく改良していく。(機能追加とはまた別の話)

ただ、直感的に感じるように、これは手間がかかるのでたくさんの人は逆のことをしようとする。つまり、ユーザヘルプを設置して、問い合わせ先は出来るだけ発見しにくい洞窟の奥深くに設置する。

でも、問い合わせには、アプリの利便性向上につながるヒントが豊富に隠されています。ユーザがどんな問題やニーズを持っているかのヒントもザックザック出て来ます。ザックザックです。

アプリ開発にとって、やったことがいい事は星の数ほどあって、そのどれもをやろうとすると時間やお金がいくらあっても足りません。だから、”やったほうがいい事”の優先順位は常に意識して、メリットとそれにかかる負担を天秤にかけないといけない。

それにもかかわらず、”ユーザの問い合わせに答える”という、直感的に開発側が一番避けたがることが、実は一番コストパフォーマンスがよく、楽チンだという結論に達しました。

もちろん、UIがクールで、死ぬほど使いやすくても、誰も欲しがらないモノはたくさんありますよね。

ただ、今回は話を簡単にするため、欲しがる人がいるという前提で、アプリの使いかってや分かりやすさをどう向上させていくかに絞って書いてみます。

リリース前の段階

リリース前は誰も問い合わせしてこない。なぜかというと、まだリリースしてないから。

結果的に、この段階では開発側のUI設計能力や経験に大きく左右されます。なので、この段階は楽チンではないんです。

できることといえば、なんでも出来るアプリを作らないようにすること、一つの強みに絞ること、周りの人に説明せずに触ってもらってよく観察することでしょうか。

他には、機能やボタンの数を減らすこと、標準的なUIに出来るだけ従うのも重要です。

口でいうのは簡単なんですが、どれもがとても難しい。。そもそも経験や知識が必要なうえに、それぞれの決断でかんたんな正解はないからです。トレードオフの連続です。

ここで重要なのは、UI設計ではトレードオフが無数にあり、優先順位がリリース前には困難だということです。

僕も3年ぐらいアプリ作っているけど、未だにリリースしたアプリの改良点は山済みで、ユーザフィードバックがない段階で使いやすいUIを作るのはかなりムズイ。

というわけで、この記事の趣旨である、簡単な方法とは話がずれてくる。この段階での話は昔書いてたので良ければ参考に。

*参考記事
使いやすいiPhoneのUIを作るために気をつけていること

UI設計の優先順位がリリース前では困難

UI設計における優先順位はリリース前ではすごく難しいんです。

例えば、タイムラインの更新をPullToRefresh(画面を引っ張るやつ)でやるか、右上にわかりやすく更新ボタンを設置したほうがいいか。

設定画面へのボタンはどの位置がいいか。ボタンは画像だけにするか、文字だけにするか。

ボタン文字はわかりやすく説明的にするか、アプリ内のスペースを取りすぎないよう短く簡潔にするか。どの部分をダイアログ付きで詳しく説明するべきか、どこまでがやりすぎで逆にうっとうしくなるか。

どの決断もトレードオフがあり、アプリを使うユーザ層によって、バランスの取り方が変わってくる。

この段階の決断は、経験や知識である程度の精度まで高められるんだけど、リリースするまでは予測できないことがはるかに多いんです。

リリースしないと、どういったユーザ層が本当に使うかわからないんです。そして、ユーザ層が正確にわからないと、UI設計の判断も正確に下せない。

つまり、最適なUIを設計するには、どういうユーザ層に使われるか未来を予測しないといけない。未来なんて誰にも予測できません。

だから、リリース前に完璧なUI設計なんて出来ると思い込まずに、早めにリリースして、ユーザからの質問や要望を聞きながら改良していくのが一番かんたんで、精度も高くなります。

楽チンコースに進むため、機能を削りまくり、荒削りでいいから早めにリリースして、問い合わせもらいながら開発できる段階にさっさと進みましょう。

問い合わせの数で優先順位を決定する

さて、無事リリースできたとします。

リリース前には、「あそこもっと説明したほうがいいかな?」とか「あのボタンは気付かれるかな?」とか、いろいろ懸念事項があったと思います。でも、人気が出る可能性も分からない段階で細部を詰めることはやめ、早めにリリースしたとする。

リリース前の、UIを向上させる改良点のTODOリストの中で、どこから手をつけていくかの優先順位は曖昧です。

それらの悩み事が、ユーザからの問い合わせがくるようになった途端に一気にわかりやすくなります。

なぜかというと、ユーザからの問い合わせが一番多い順に改良していけばいいだけなんです。とても簡単。専門知識も経験もいりませんね!

これならドナルド・ノーマンやカーネマンの本を読まなくてもできる、簡単な判断基準です。

僕の話をすると、今まで作ってきたアプリで多かった質問は、有料版へのアップグレード関連でした。やっぱりお金を払う前はみんな不安になるようです。

例えば、確定申告の帳簿入力アプリTaxnoteでよくあったのが、「機種変更したけど、もう一度有料版買う必要ありますか?」とか、「iPhone版でアップグレードしたけど、iPad版も別料金ですか?」とか、「月額課金ですか?」などです。

もちろん、ヘルプなんて誰も読まないので、流れの中で分かってもらえる方法をいろいろ考えました。

シンプルな方法として、アップグレードボタンを押した時に下記のようなメッセージを表示することにしました。

「有料版では月15件の入力制限がなくなります。お支払いは一回のみ。iPhone・iPad版どちらかで購入すれば片方は無料です。一度購入すれば、機種変更時も無料でアップグレードできます。」

こうした後は、かなり同じ質問が減りました。これでも、まだわかりづらいという人もいるので、もう一歩行きたい。

改良してみて、以前来ていた問い合わせが来なくなったらよい兆候。まだ同じような問い合わせがくるなら、もっと分かりやすくする余地があるということです。

こうして、よく質問される部分からUI設計を改良し、質問がこないぐらいになるまで工夫していくと、効率的に重要な部分から手をつけていける。

想像もしなかった改善点に気づく

上記で説明した部分は「どこから手をつけていくかを知ること」でした。でも、アプリの改善でもっと重要なのは、「自分が想像もしてなかった改善点に気づく」という部分です。

これはそもそも自分の想像外の事なので、事前に準備できない要素です。他人から指摘されて、「ああ、そうか!ここがわかりにくかったのか!」となるところ。

実際アプリの問い合わせや質問の内容の95パーセント以上は「ああ、やっぱりそうですよね、ここ改善しないといけないよな。。」と想定の範囲内の事柄なんです。

でも、たまーに、5パーセントぐらいの確率で、「え、そういう視点があったのか。。」とか、「なに、そこで詰まるのか。。」とか、自分の想像もできなかった問い合わせがきます。

これは本当に貴重なフィードバックで、とてもとても重要なんです。

なんで重要かというと、自分の想像外の領域を拡張してくれて、アプリを新しい角度から使いやすくするキッカケとなる。さらに、想定してなかった部分だから、シンプルな解決策が見つかることが多いのです。

事前に想像できた部分なら、そこのUIを改良することに時間がかかるなどの理由で後回しにしていることが多いのです。例えば、アニメーションを実装したら分かりやすいけど後回しにしたとか。

だから、事前に想像できた部分は、理由があって後回しになっていることが多い。

でも、自分の想定外のことなら、とても単純な解決策でさくっと利便性が向上することもある。例えば、メッセージの単語を少し工夫するだけとか。

気づかれてない機能を発見する

問い合わせあるあるの一つにこういう場面があります。

ユーザ「Aという機能が欲しいです」

開発側「Aという機能はすでにありまして、~という画面の~というボタンを使うとできます。」

というような、すでに実装しているのに、その機能が気づかれてないという事態。

気づかれない機能はないのと一緒でもあるし、あまり多くの機能を追加できないアプリの中において、厳選された機能が気づかれないのは大いに問題です。

こういう問題点も問い合わせの数でよくわかります。

僕が作っているZenyという家計簿アプリでよくある要望に、「カテゴリの並び替えができると嬉しい」というのがあります。

そして、アプリ内にはカテゴリの並び替え機能はあるのです。

*下記の画面でいうと、右上の編集ボタンをタップすると出来る。

これはセルの長押しとか、いろいろな選択肢の中から、iOSの標準UIがベターだろうと思ってこうなったんだけど、気づかない人が大量にいます。途中、ダイアログで説明するように改良したけど未だにくる。

こうなると、同じような問い合わせがこなくなるまで、もっとよい方法を考えようという認識ができます。

今考え中なのは、編集ボタン名を「カテゴリの編集」という名前に変えるとか、いくつか検討中です。

実装予定機能の事前調査にも

例えば、アプリにこういう機能をアップデートでつけたいなあと思ってたとする。

そんな時、問い合わせで要望が多いと、そのアップデートにお墨付きができたも同然です。「やはり必要だったか!」と。

逆に言えば、「こういう機能つけたいな」と思っている機能に対して要望がなかったら現時点では強い要望はないともわかる。

まあ、ユーザが想像してなかった便利な機能という可能性もあるので、最終的な優先順位はこれだけでは決められないんですが。

機能要望が来た時、「こんなふうに実装しようと思っているんですが、これで使えそうですか?」と、こちらから逆質問することもできる。

これ、こんなチャンスは普通だとなかなかないです。

自分からユーザインタビューをしようとしたら、アプリのターゲットユーザ層を探して、無理やりつかってもらって感想を聞くとか、すごく時間もコストもかかるわけです。

お金払ってターゲット層かどうかも分からない社外の人にユーザインタビューするより、遥かに効率がよくてお金もかかりません。

開発戦略の貴重な情報源

ここまで説明していたように、ユーザからの問い合わせはアプリを改善する上での重要な情報源となるので、開発に関わっている人間が直接対応するのがベストであります。

よく、新規アプリや新規事業の相談を受ける時、サポート対応は出来るだけしたくないとか、外注するとか言われるのだけど、すごく貴重な学びや情報源のリソースを自ら遮断することになっちゃう。

もう継続的な開発をしないアプリとか、リリースした後は放置する予定のものだと合理的なんですけどね。

もちろん、UIで解決できないサポート案件が多いサービスもあるので、サポートチームが別途必要な時もあるんですが、情報源として貴重だという事実は変わらないのです。

スタートアップぐらい本気レベルだと、創業者が常に電話対応するぐらいのレベルでいいと思う。Airbnbの創業者は常に頭にヘッドセットをつけて、ユーザからの電話対応ずっとやってたらしい。電話だとチャットよりもっと詳しくわかるし、こっちから質問するチャンスも多いですね。

僕はスタートアップみたいに仕事はできないので、1日に1-2回、ユーザのサポートメールに返信するっていうレベルですが。

問い合わせの設置方法

さて、問い合わせを具体的に設置する方法としては、外部のサービス使うのがお手軽で、なおかつ出来もよい。

自分のオススメはアプリだとHelpshift、WebサービスだとoLarkでしょうか。

*参考記事
アプリに組み込むヘルプサービス、Helpshiftがいい

その他の補足

今回は問い合わせがメインの話だったけど、問い合わせくる以前にユーザがアプリから離脱しているケースも多々あります。

さらに、問い合わせでは分からない要素もあるので、そんな時にデータ分析です。データ分析とユーザフィードバックの両輪でアプリを改善していきましょう。

*参考記事
Lean Analyticsとアプリ開発

また、機能要望に全部答えていたら酷いアプリになるので、ほとんどの要望にはNOという必要があるけど、どう返信すればいいのとお悩みの方に。

*参考記事
ユーザーの意見にNOと言うのは大切だけど、実際にどう言うかが難しい

サポートが必要ないぐらいアプリを改善するとか、ヘルプを読みやすくするということの投資対効果についてはこちら。

*参考記事
ユーザヘルプの改善は投資対効果がとても高い


*家計簿読み上げのアプリ作ってます。自己紹介と過去ログはこちら

フィクションで感動させる職業が羨ましい

漫画とか映画、小説など、フィクションの世界を作り上げて人々を感動させることができる職業の人が羨ましい。

僕は特に漫画を読むのが好きだけど、ヴィンランドサガやプラネテスを読んだ時や、ハンターハンターのネテロ会長自爆シーンを読んだ時の感動は何者にも代えがたいものがある。

漫画や映画で感動した直後というのは、なんともいえない気持ちの良いじーんとした瞬間がしばらく続いて、あの瞬間が本当に幸せを感じる。

最近では”かくかくしかじか”と”夏雪ランデブー”を読んだ時に、こういう現象が起きた。

それで、そういう感動した作品を読んだ時に、「いやあ、素晴らしい時間をもらえた。本当にこんなものを作ってくれて感謝だわ。」と心の中で何度も思うんだけど、そのあとにいつも思うことが、「ああ、こんなものを作れて羨ましいなあ。」ということです。

自分は日々のちょっとした生活が便利になるものをアプリでこつこつと作っていて、もちろんそれに感謝される時は最高に嬉しいのだけど、この素晴らしいフィクションを読んだり見た時の感動とはまた方向性が違う。

今は便利な製品でも、テクノロジーの進化によってすぐ廃れてしまうし、アプリレベルになったら数年でもう古臭いものになっちゃったり、忘れ去られてしまという物哀しさがあるんですよね。

生活が豊かになるテクノロジーも、人間の余暇を充実させる芸術もどちらも世の中には必要だと思っていて、どちらかといえば、前者のほうがないと困るベースでは重要です。

そうなんだけど、ただ単純に、人を感動させることができるフィクションを作れる人が本当に羨ましい。

自分にはできないから嫉妬してしまう。いや、嫉妬まではいかないけど、自分もそういうものが作ってみたいと思ってしまう。まったくそういうスキルがないけど。

そういう方向性でいえば、僕はツール系アプリしか作ってないし、それしか作れないけど、ゲーム開発者が羨ましい。

あれは製作者のイマジネーションを具現化できるし、オリジナリティのあるゲームシステムを0から作るなんて、本当にクリエイティブなお仕事だと思う。

マインクラフトとか、カウンターストライクとか、ウイイレとか、グランツーリスモとか、ああいうゲームを作った人達が羨ましい。

マインクラフトがマイクロソフトに凄まじい金額で買収されて、創業者がビバリーヒルズの100億円近い豪邸をビヨンセなどの金持ち押しのけて買ったというニュースが最近ありましたね。

それをみて、おおなんてバブリーなんだ。でも、インディーゲーム業界からこんな成功事例が出るのは素晴らしいねと思いつつ、マインクラフト物語みたいな映画を見つけた。

キックスターター経由で資金募って製作されたらしい。今度見てみる。

究極には、文字だけで物語を作り上げて人を感動させることができる小説家が一番羨ましい。フォーマットがシンプルなだけに、時代が変わっても色あせることが空くないのが羨ましいポイント高い。

例えば、漫画だったら手塚治の漫画がいかにレジェンドだったとしても、今の人が読むとちょっと絵柄が厳しいとかよく言われるし、ゲームだって時代が変わるとどうしても最先端のものには技術的に負けてしまう。

もちろん、”アドルフに告ぐ”は何度読んでもいいけど。

まとめると、便利ツールを作っていて、「これは本当に便利!感動しました!」って言われる嬉しさはあるんだけど、フィクションを0から作り上げて人々の心を感動させることはできないので、そういうことができる職業が羨ましいということでした。


*家計簿読み上げのアプリ作ってます。自己紹介と過去ログはこちら

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