ブラックスワンで有名なナシーム・タレブの著作、アンチフラジャイルの日本語版がようやく発売されました。めでたい!

邦題は、「反脆弱性」。いやあ、元々これはタレブの造語なんだから、そのままアンチフラジャイルでいいんじゃねえかと思うんですが、まあやっと日本語で出るので嬉しい限りです。

というのも、この本、英語版が出たのは2012年の11月ですよ。つまり、翻訳に4年ぐらいかかってる。僕は友達とこの話するたびに、「ああ、なんか翻訳で問題が出たんだろうなあ。。」って話してたんだけど、案の定、今までタレブの本をすべて翻訳してきた、 望月衛さんが翻訳者から監修者に変わっていた。

一体何があったんだろうか!ブラックスワンてかなり売れてる本だから、商業的な理由じゃないのは確かなんですよね。ちなみに、 望月さんの翻訳する本は金融・経済系でたいてい面白い本が多い。最近だと、ヤバイ社会学書いた人の新作を翻訳している。これも面白そうだ。

まあ、ここ数年、いつ出るのかいつ出るのかとTwitterで訴えてきたけど、最近はもう諦めてただけに、日本語版として出してくれるだけで嬉しいですよ。

もうその間、待ちきれず、英語版で3回以上は読んだから、内容はだいたいわかってるんだけど、やっぱ僕は日本語ネイティブなんで日本語のほうが読みやすいし。

僕のアプリ開発のノウハウって、タレブの本とBasecampの本に書いてることをそのまま実践してるだけなんですよね。だから、このブログの以下の記事とか興味ある人は、間違いなく面白いと思う。

勝者総取り世界の憂鬱
不確実性とは不完全情報のこと
新しい便利なモノは新しい問題も作る

さらにいうと、このアンチフラジャイルという本は、今までの難解なタレブ本の中で一番読みやすいんじゃないかと思う。まず、一作目のまぐれや二作目のブラックスワンのように、金融や経済の予備知識はあまりいらない。

そして、この本は「じゃあ、いったいこの不確実な世界でどう生きていけばよいの?」っていうブラックスワンを読んだ読者に対する答えであり、具体的にこうしたらいいよっていう内容なので、そのぶん読みやすい。

タレブの本は、まぐれとブラックスワンもどちらも最高に面白いけど、初めて読む人には、この反脆弱性(アンチフラジャイル)から入ると読みやすいんじゃないかなと。タレブ自身、アンチフラジャイルが自身の最高傑作だと言ってます。

反脆弱性ってどんな内容?

ブラックスワンでは、非常に小さい可能性で起こるが、それが大きな影響を持つ事象について書かれた本だった。そして、もしそれが悪い事態を起こすものなら十分注意しろという警告がちりばめられている。

こういった事象は過去の一度も起こった事がない場合が多いので、基本的に過去のデータは役に立たない。例えば、僕が自転車で東京を走っていて、突然、酔っ払い運転のトラックに後ろからすごいスピードで引かれたとする。

毎日同じ道を自転車で走っていて、3年間一度もそんなことはなかったけれど、突然そのようなことが起こったら、これは間違いなく僕にとってはブラックスワンな現象です。悪いブラックスワン。

逆に、よいブラックスワンもある。例えば、アプリの勉強会でなにかを発表して、それを見た人がたまたま懇談会で声をかけてくれ、その人が今まで想像もできなかったアプリのアイデアを授けてくれるかもしれない。これはよいブラックスワン。

反脆弱性という本は、日々生きている中で、どうやってブラックスワンという現象を発見し、悪いブラックスワンには気をつけて、よいブラックスワンが起こりやすい状況を作るかというテーマです。

ここでもっとも重要なのが、ブラックスワンを予測しようとしないこと。確立で計算できるカジノのようなケースはごく稀であり、この世界のほとんどの事象は複雑系である。だから、未来を予測しようと無駄な努力はせずに、起きうる結果の大きさに注目しろというのが本の趣旨です。

ある事象が起こるかを予測をするのは不可能だけど、ある事象が起きた時にどれほど影響が大きいかを予測するのは簡単である。そして、ブラックスワンな現象は、リスクとリターンが非対称であるのが特徴。

例えば、普通は車を運転していて重大な事故に遭遇することはまずない。でも、もしその事象が起きてしまったら、人生が終わってしまうかもしれない。これは、ほとんどの場合は大丈夫だけど、なにかが起きた時はとても大きなリスクがあるという非対称性がある。

こういう、ほとんどの場合には何も起こらないけど、起きてしまった時の結果が悲惨だと思われる事柄にはめちゃくちゃ臆病になるのがよい。

逆に、IT勉強会とかに足を運んでも、特に何も得る事がなかったりして、「これなら家で勉強してたほうが効率よかったな。。」って思ったことがある人は多いんではないだろうか。

でも、IT勉強会やパーティに行くっていうのは、たいていの場合、そこまでよいことが起きず、時間の無駄だったかもと後悔することも多いのだが、なにかのきっかけでものすごく重要な、ラッキーなことが起きる可能性を秘めている。ここにも非対称性がある。

こういう、大抵の時は上手くいかないけど、その失敗のリスクは低くて、もし上手くいった時のリターンがすごく大きな場合、失敗を恐れずに積極的にリスクを取りましょうという話です。

人間の脳みそは悪いブラックスワンが起こる確率も、よいブラックスワンが起こる確率も軽視しがちです。だからこそ、悪いブラックスワンに対しては徹底的に臆病になり、よいブラックスワンが起こるチャンスにはどんどんトライするのがよい戦略となる。

また、複雑系の世界(例えば人間相手の商売など)では、トライアンドエラーは知識に勝るということも口すっぱく語られてる。この世界の理論はトライアンドエラーによって出た結果により、後から作られることがほとんど。

あれこれ試した結果、上手くいく方法を発見した事例に基づいて理論が出来上がるのが歴史の常だけど、後からみると、あたかも理論を発見してから結果を出しているように勘違いされやすい。

医療の現場で顕著なのだけど、ずっと人類は「よくわからないけど、こうすると上手くいく」という経験則でやってきた事が驚くほど多いみたいです。そして、後々になって理論的に正しいことが発見されたり。

まあ、この本の内容は広範囲に広がりつつも、中身が濃いので、このブログで簡単に紹介することは不可能であります。薄っぺらいビジネス書と違って要約ができないし、かいつまんで説明しようとしても、中身の百分の一も説明することができない。

というわけで、いつも通り今までの思い込みをぶち壊されちゃう面白い本なんだけど、この本、英語版が発売されてから四年ほどたっているんです。

そうなんです、このアンチフラジャイルの次回作である、「Skin in the game」というのがもうすぐ発売されようとしてるんですね。せっかくだからこの本についても書いてみたい。

タレブの次回作Skin in the gameってどんな本?

次回作はタレブの公式HPにドラフトがアップされていて、Mediumでも公開されている。Mediumのサイトがデザイン的に読みやすいのでオススメです。

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このSkin in the gameっていうのは、「自分がやっている事に対して、自らもリスクを負う」というような意味。

例えば、僕が野菜を作っている農家だったとする。自分が売っている農作物を自らも食べていると、これはSkin in the gameの状態で社会にとって望ましい。でも、自分が作っている農作物は農薬だらけで、それを売ることはするけど自分では絶対に食べる代物ではないというなら、これはSkin in the gameの状態にないことになる。

儲かったら多額のボーナスがもらえて、失敗したら国民のお金で救済されるリーマンショック時の投資銀行のようなシステムは、自らとったリスクを自らで引く受けていないことになり、こういう事象がある社会システムはよろしくないと。逆に、それぞれが自らのリスクを引き受けている状態であるほど望ましい。

これってどんな時にでもいえますね。何か仕事していて、失敗したとしても自分の責任にならないなら、その仕事は適当になるし、慎重にもならないし、結果的に質も下がる。なので、常にSkin in the gameの状況に自分をおくというのも注意するべきとなります。

とはいっても、この次回作、結構いろんな分野の話があって面白い。一応全部読んだけど、僕のオススメはこの3つ。

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特に、1番目のThe Most Intolerant Winsは傑作だと思う。豚肉を禁ずるハラール食メニューの追加や、禁煙などのルールがあるレストランの標準ルールになるには、賛成派が過半数を取る必要はなく、25パーセントを占めればそれでことが足りるという仕組みを論じてます。

例えば、バーベキューパーティで4組の家族を招待した時、その中の1組だけイスラム教徒だったとする。イスラム教徒の家族は絶対豚肉食べないから、どちらでも合わせられる3組の家族はそれに合わせ、そのバーベキューは豚肉なしになる可能性が高い。

このマイノリティルールは大小関わらず、世界のあらゆるところに見られ、ピーナッツアレルギーから宗教的ルールまで幅広い。タレブはここから議論を展開し、厳しいマイノリティルールを持った宗教が、もし他者にもルールを強制する場合はどうなるかという話まで発展していく。

とにかくこの記事は長いけど、今のところ一番人気の文章のようです。

とはいってもタレブの難解な文章を英語で読むのはしんどいので、次回作の日本語版はぜひとも、半年後ぐらいには発売してほしいっす。翻訳はかなり大変な部類だと思うけど、期待しております。


*家計簿読み上げのアプリ作ってます。自己紹介と過去ログはこちら