またまたブラックスワンについて書いてみる。この本は凄く面白いからである。

この本は人間の追認バイアス、大きな影響を及ぼす不確実性に関する事がテーマなんだけど、数年ぶりに読み返してみると、とても面白い章があった。

それは上巻の第七章「希望の控えの間に暮らす」という章。

ここでは、思想家、科学者、芸術家など、成功はほんの一部に集中し、成功する人は一握りしかいない分野で働く人の憂鬱を書いている。

読み返した時、ここまで面白い章があったのかとびっくりした。

アプリやWebは勝者が掛け金の大部分をかっさらう分野でありまして、数年前はそういうことをしてなかったからそこまで印象に残らなかったのかもしれない。

そういうものをやる時の憂鬱がよく表現されていて、今読み返すと秀逸でした。

ちなみに、著者のタレブ自身、ウォール街でクオンツをしていたのだが、その時の手法が10年にあるかないかの大暴落のほうにかけるというもの。

その逆ばりの手法から、普段は周りから成績がよくないトレーダーとしてみられるので、こういうエッセイが書けたのかもしれない。

かもしれないと書いたのは、人間は因果関係をすぐにでっちあげたがると口酸っぱく言っている本だからです。実証データがない限り大抵は思い込みの可能性が高い。

話がそれた。

勝者総取りの世界の憂鬱についてでした。

まわりの冷たい目

毎朝あなたは大学の研究室に行く。〜中略〜

もちろんいい事なんかなかった。なんにも見つからなかった。時計の修理工ではないのだ。

何も見つからなかった事にはとても価値がある。それも発見にいたる過程の一部だからだ。〜中略〜

一方、あなたの義理の弟はウォール街企業の営業担当で、手数料をがっぽり稼いでいる。しかも、着実に、だ。〜中略〜

休日はひどいことになる。家族の集まりで義理の弟に出くわすと、いつも自分の奥さんが間違いなくイライラしているのを感じる。

彼女は一瞬、自分が負け犬と結婚してしまったんじゃないかと思い、それからやっと、あなたの仕事の仕組みを思い出す。 〜中略〜

どうすればいいんだろう? 〜中略〜

ヒッピーみたいな格好をして反抗すればいいんだろうか?

芸術家ならそういうのもアリだろうが、科学者や勤め人だと難しい。あなたは行き詰まってしまう。

まわりの冷たい目というのは、すぐに成果が出ないものに取り組む時はどうしても避けられないもので、スタミナが必要だと書いてる。

ソフトウェアの世界だとリリースまで長い時間がかかるサービスもあるし、リーンな感じでアップデートを繰り返しても人気が出るまで時間がかかるものもある。

そして、大抵は長い時間かけても結果がでなくて報われないのが普通。

大成功か何も得られないかという、プラスの方向に突出した結果がいちどきに出る事のある仕事はたくさんある。

使命感を持って没頭する類の仕事、たとえば地道にガンを治す薬を見つけるという難題に取り組んだり、人の世界の見方を変える本を書いたり。

ちなみに、ブラックスワンでは、突出した成功はないけど着実な積み重ねが報われる”月並みの国”の世界と、大勢の敗者と、一部の突出した成功だけがある”果ての国”という概念がある。

例として、歯医者や会計士など、一度に出来る量は限られているけど、確実に成果が出るのが月並みの国で、芸術家や俳優など、一部が総取りするのが果ての国。

これを読んでいる時に思ったんだけど、こういう類の仕事はITの発展やグローバリゼーションが進むにつれ、増えていく一方なのではないでしょうか。

コモディティ化した作業がどんどんロボットやソフトウェアに浸食されていくとすると、今より多くの人がますます果ての国の仕事を選ぶようになるかもしれない。

現在は月並みの国の枠内でも、技術革新により、だんだんと格差が開き始めている業種もあると思った。

結果より過程?

スタートアップ系の記事でもよく出てくる、過程を愛するという話について。

結果よりも過程が大事だという人もいる。でも、彼らが人類であるとすれば、あれは半分はウソだ。真実を全部語ってない。

物書きは名声を求めて書くのではないとか、芸術家は芸術をやりたくて創作を行うだとか、ああいう活動はそれ自体が報いだとかよく聞くが、あれは半分ウソだ。

たしかに、そういうことをやっていると、それだけでいつも満足できる。でも、だからといって芸術家たちが注目されたいと思ってないわけではないし、有名になったほうがいい思いが出来る事に変わりはない。

これには反論できない。

僕は自分が欲しいアプリを作ってて、もちろん過程が楽しいのは間違いないけど、ストアに出す限りは世間様に認められることを期待して開発するわけです。

自分が使うからいいやと思ったとしても、売れなかったら惨めな気持ちになるし、負け犬呼ばわりされて枕を濡らす日々です。

ヒュームのような力量のある哲学者でさえ、最高傑作を書評で罵倒されて、何週間も寝込んでしまったと書いてた。

ヒュームも人間だったか。

人間の本性と幸せ

実証心理学の実験にもよく出ますが、人間は9年間で収入0円、次の一年で5000万円稼ぐよりも、10年に渡って500万円ずつ稼いだほうが幸せを感じるようです。

最初の一年で5000万稼いで残りの9年で収入が0円でも、均等に稼いだほうがずっと幸せを感じる。

いい気分の強さより、いい気分になった回数のほうにずっと強い影響を受ける。

楽しく暮らすには小さな快楽を均等に分けたほうが胃に優しい。

当然、果ての国の職業は胃に悪いですな。

職業選択を安定重視で選んだとしても、人生はごくたまに起こる大きなジャンプが全体に強い影響を与える。

問題はもちろん、私たちは結果が安定的には出ない環境で生きていることだ。黒い白鳥が人類の歴史の大部分を左右している。

残念なことに、今の環境に合った正しい戦略は、私たちの体内で報酬を提供しないし、正のフィードバックも起こさない。

過去に比べ、果ての国の事象が増えているのが現代社会。

僕は技術革新が好きだけど、人間は隣の芝生を見て自分の幸福度を計測するので、収入、ネットでの影響力など、あらゆる部分で格差が可視化できるのが現代社会。

Facebookを見ればリア充がまぶしく、不幸になるという研究結果があるらしいけど、ここで上手く折り合いをつけていくのは重要な問題かもしれない。

ネットは人間を憂鬱にする部分もあるし、救う部分もあるので、救う部分を強化するサービスを作れば流行るかも。

お仲間と敬意

人間、一人じゃ生きていけないなんて陳腐な言い草かもしれないが、実際、自分で思っているよりも私たちには他人が必要なのだ。

特に尊厳や敬意という点で必要なのである。

実際、まわりから認められることなく、何か大きなことを成し遂げた人は歴史上ほとんどいない。〜中略〜

黒い白鳥に左右される営みに手を出すなら、お仲間がいたほうがいいのである。

これを読んでいる時、ポールグレアムのエッセイを思い出した。

スタートアップでは、周りから無駄な事をやっていると思われ、蔑まされる辛い期間を耐え抜くスタミナが必要で、一人ではなかなか耐えきれず諦めてしまう。だから共同創業者がいたほうがいい。とかだった気がする。

この章を読んだあとは、なかなか成果が出なくても努力している人には敬意を持とうと思った。敬意と言うとジョジョを思い出す。

こうしたほうがいいんじゃないかとか、ついつい思ってしまうのが人間ではあるけれど、そんな些細な予測は当てにならないし。

その営みの過程で何かを発見するという事が往々にしてあるし、全面的に応援するという姿勢が重要だと思ったので、うっかり忘れない限りそうしようと思う。

ちなみに、著者のタレブが個人にオススメするのは、9割を月並みの国の仕事に割り当て、残りの1割ぐらいで果ての国の事象に割り当てるバーベル戦略というものなんですが。

ただ、リスクテイカーである起業家に対しては敬意を持っていると、スタンフォードの授業に出ている動画で言ってた。

失敗できる数が限られている個人としては最適戦略ではないけど、無数のソルジャーによって、社会にとっては大きな前進が起こる原動力になるかららしい。

月並みの国と果ての国のパーセンテージをどのぐらいで割り当てるかは、その人の趣向やおかれている状況によっても変わってくる。

関連リンク

果ての国と月並みの国:橘玲 公式サイト

果ての国と月並みの国と、スタートアップのスケール

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