ちょっと前に発売してすぐ購入してたんだけど、英語というのもあり、なんかちょこっとずつ読んでいて、ようやく半分ぐらい読み終わった。といっても、今回の本はすでにタレブのMediumで発表されている文章が元になっているので、実質二回目を読んでいるといった印象なんだけど。

ちなみに、タレブの著作はそれぞれ何度も読み返してはいるんだけど、どの本も同じような内容を話していると見せかけて、ちょこっと主題が違って面白い。

「まぐれ」では、投資の世界ではいかに運の要素が強く、成功した投資家をそれを過小評価しているといった話を扱っていた。ここで重要なのは、株式投資やベンチャー起業など運の要素が強い事象と、歯科医や将棋の棋士など、運の要素が弱い事象とを区別して世界を見るべきという話でした。

次の本、「ブラックスワン」では、ごく稀に起こるが、その影響がものすごく大きい出来事を、いかに人間が過小評価するかというトピックを扱っている。この極稀に起こる事象は、自分にとって良いこともあるし、最悪のこともある。今まで大丈夫だったとしても、一回のブラックスワンで破滅するような事には手を出すなという話。

その次に出た、「反脆弱性」という本で、じゃあ、僕たちはこの不確実な世界でどう生きていけばいいの?という問いに対する答えを書いた本。具体的には、最悪のケースで破滅するようなブラックスワンには極端なまでに臆病になり、ほとんどは徒労に終わるけど極稀に凄く良いことが起こるブラックスワンはちょこちょこトライする。

ブログを書くというのも、ほとんどの場合は誰にも読まれないけど、たまに凄く良いことが起きたりする。(逆に凄く炎上することもあるが)

さて、最新作の「Skin in The Game」はどんな内容かというと、リスクとリターンの均衡が崩れた領域はいつか破綻すると世の中の仕組みを語っている本です。例えば、投資銀行の社員はリスクを取りまくって上手くいけば馬鹿高いボーナスをもらい、失敗すれば国民の税金で救済されるということがありました。

こういう、リスクとリターンの均衡が保たれていない領域は脆くなり、いつか崩れる運命にあるという話。この、リスクとリターンの均衡が崩れている領域が崩壊したとき、周りの人間がその代償を払う必要があり、世の中にとってよくないし、倫理的にも正しくないといった、結構倫理観や、哲学的な内容であったりもする。

個人的には、Skin in The Gameの内容は、タレブが書いてきた今までの著作に比べて、世の中の事象を話している内容が多い。言い換えれば、不確実性というのが今までの著作の大きなテーマだったのに比べて、世の中の見方を扱った今作は少し趣旨が変わってて面白い。

外科医に見えない外科医を選べ

例えば、「外科医に見えない外科医を選べ」という章では、見てくれでアピールする必要のある人間は、結果的に自信のなさをシグナリングしているという話題を扱っていてる。その他の条件が同じ場合、見てくれや学位をことさらにアピールしている人は避けろという内容で、逆に、そういったことを気にしない人は、そういったことをする必要がない、自信と実力がある可能性が高いという話。

もっと言えば、肩書きを何個も並べる輩には注意しろとも書いている。というのも、何かを成し遂げた人であれば、その人の凄さというかステイタスを説明する時、何か重要なポイントを一つだけ説明できればそれで十分だからです。だらだらと並べる必要はない。もしくは、特にそれをアピールする必要さえもなかったりする。これは、SNSとか、いろんな場面で応用が効く事象だと思う。

また、よくある勘違いとして、専門分野での実力と、その専門分野について語る能力は別物として考えるべきだとも強調している。自信に満ち溢れ、上手く仕事について説明できる人が、その仕事の実力があるとすぐ人間は勘違いしてしまうけど、全く自信なく喋りも下手な人が本当は能力があるということがしばしばある。喋る能力と実務をこなす能力は別個のものとして考えないといけない。

ついでに言うと、実務で成功すればいい人は、別に議論に勝つ必要はなく、ただその人の専門分野で成功すればよいだけなので、議論に勝てる能力があるとは限らない。むしろ、議論に勝つ必要がないので、議論やもっともらしい説得力のある説明をすることが苦手だったりする。

本当の専門家と偽物の専門家

Skin in The Gameでは、本当の専門家と、偽物の専門家と言う概念も語ってらっしゃる。この考え方はすごく簡単で、本当の専門家はその人の専門分野で失敗した時、そのツケを払う必要がある人たち。

実際のところ、ほとんどのプロフェッショナルは本当の専門家。例えば、プロのサッカー選手なんかは、なんどもミスしていたら試合に出れなくなる。それが続くと、首になる。結果的に、本当の専門家がいる領域では、生き残っているというだけでその人の重要なトラックレコードとなりうる。

リアルワールドではほとんど存在しないけれども、偽物の専門家と言うのは、自分が失敗したとしても、そのツケを自分が直接払わないで生き残ることができる領域の人。株式の予想屋とか、経済学者とか、コンサルタントとか、そう言う領域で多いと。

不平等とリスクテイクについて

昨今、グローバルに大きな問題となっている、格差の問題、不平等感などにも言及していた。

世の中にはよい格差と、悪い格差があって、よい格差というのは、その人の実力(運も含めた)によって、アメリカンドリームが起こること。これについて、人々は羨望の眼差しをおくるが、怒りを覚えるというようなことはない。

でも、その人の家柄だとか、コネだとか、一度その地位を手に入れた後の既得利権だとかで、トップ層が逆転される可能性が極端に低い社会というのが、悪い格差。上位層が、いつでも下位の層から逆転される、つまり上位層がひっくり返る可能性が常にあるという社会が望ましいと書いてある。

これ、基本的にビジネスの世界だと、大企業っていつの間にかバッタバッタと倒れていくから健全ではあるんだけど、最近はGoogle、Facebookなど、大きな会社がずっと支配的な地位を築きつつあるよなっていうのもあるので、それがあまりにも続くと良くない世界になりそうだなっていうのはある。

でも、二世議員がめちゃくちゃ多い日本の政治の世界に比べると、ビジネスの世界はバタバタと上位層が崩れて行くので、まだまだ健全な世界なのかも。

タレブの投資方法を個人が真似できるか

ついでに、「まぐれ」、「ブラックスワン」などで書かれていた内容なんだけど、タレブが財産をなした投資方法を実際にできるか最近ちょっと調べ中。

ざっくりいうと、資金のほとんどはめちゃくちゃ固い資産、例えば、短期の米国債か現金で所有して、一部の資金だけを、株式が大暴落した時に大きく儲かる方に賭けるという投資戦略。基本的に、保険のような性質。何年間も損失が少しずつ出て行く投資方法なので(ただし、リスクは限定されている)、あまり精神的にはよろしくない。だから、保険として考えた方が良いらしい。

ちなみに、タレブ自身が作った、Universa Black Swan Protection Protocol-Inflation I L.P.というヘッジファンドは、まさにこの考え方を実践するヘッジファンドなんだけど、調べたらヘッジファンドって超富裕層しか投資できないらしいですね。

一億円単位とかで投資する人向けのもので、一般ピーポーには購入すらできないらしい。

とはいえ、基本的な考えは簡単で、具体的には、「プットオプションの買い」ということをするんだけど、実際に興味ある方は、「ホントは教えたくない資産運用のカラクリ」という本の第3章「ブラックスワン戦略」というところが、この戦略を実際に個人がやる方法について詳しかった。興味ある方は読んでみると面白いかも。

*昔買いた記事
「邦訳に4年かかった謎」タレブの「反脆弱性」(アンチフラジャイル)と次回作のSkinInTheGameについて
ナシーム・タレブが成功の定義を大学の卒業スピーチで語ってた


*家計簿読み上げのアプリ作ってます。自己紹介と過去ログはこちら