3年ほど前に、iOSでの自動継続課金利用のルールが大幅に緩和されまして、ツール系でも使えるようになりました。最近は、Appleも定期購読サービスの利益が大きくなったのもあり、すごく力入れている。
それに伴い、アプリ開発者側にもiOSでの定期購読がどんどん使いやすくなってまして、以前の暗黒時代を思い出すと嬉しい限りです。
*参考
リジェクトされまくったiOSの自動継続課金が規約変更でついに利用でき、使いやすくもなったので、Androidの定期購入と比較してみる
AppStoreの自動継続定額課金の新ルールについて (Auto-Renewable-Subscriptions)
あと、これが最も重要な部分だとは思うんですが、ここ最近は定期購読サービスが一般的になってきているので、ユーザ側の抵抗がだいぶ少なくなっている気がします。
昔は、個人開発のアプリでも有料版は一回買い切りっていうのが当たり前で、定期購読を購入してもらうのは相当なハードルというか、まず売れない。実装しようもんなら、低評価の嵐が怖い。みたいな恐怖があったかと思います。
もちろん、今でも定期購読を実装するとなると、それだけの価値が認められないと買ってもらえないので、もちろん買い切りよりハードルは高い。ただ、継続的に利益が出るビジネスモデルなら、継続的にアップデートするモチベーションは間違いなく高まるので、アプリの持続可能性という意味では広告よりこっちの方が良いモデルだと前々から思っております。
そこで、今後、自分のiOSアプリに定期購読をつけたいなって思っている人たちに向けて、ここ数年運用してきてわかったことをできるだけ書いていきたいと思います。
まずは審査を通すために
昔と違ってiOSの定期購読はツール系でも使えます。以前に比べて格段に通りやすくなったとはいえ、それでも慣れてないとリジェクトされまくって悩むかもしれません。
まず、定期購読に入ると使える機能を何にすれば良いか。
アップルのルールとしては、「ユーザに継続的に価値を提供するもの」となっておりまして、これは結構曖昧です。例えば、定期購読加入者はクラウドが使えるとかはわかりやすい例ですね。これは、開発者側も、サーバを維持するコストが継続的にかかるから定期購読のビジネスモデルが必要だという理屈でOKとなる。
注意点としては、AppleのiCloudとかでクラウド機能をつけて、これを使うには定期購読入ってねとしてもリジェクトされる可能性が大です。開発者側がサーバを維持しているわけじゃないのが理由で、自前で提供しているかどうかがポイントのようです。iCloud使うとリジェクトされたということをよく聞きます。
あと、簡単な方法として、無料版で広告をつけておいて、定期購読加入者は広告が外れるというのでも審査通ったりします。僕のListTimerは広告付きで基本無料で使え、有料版は年間300円の定期購読で広告が外れるだけの違いです。
こんな簡単なことでいいのかと最初思いましたが、どうやら、広告というのは継続的な収入が開発者に見込めるから、広告を外すというのは要件に合致するのかな。これで通った人は何人も聞いてますが、アプリによって、または審査員の気分によってダメだって言われる場合もあるかもしれない。
審査だけはAppleの審査員のさじ加減なところがあるので、同じ条件でもなぜか大丈夫だったり、無理だったりするのが昔からあるところです。
最初だけ審査通るような実装をして、後からこっそり仕様変更するとかは絶対辞めた方がいいです。後からまたリジェクトされたり、突然アプリを削除されたり、悪質だと思われたらアカウントBanされたりすることがあるので。
ちなみに、有料版を表示する画面での細かいルールとか、AppStoreに絶対書かないといけない定期購読の説明や価格など、細かいルールもあるので注意が必要。まあ、こっちは曖昧な部分はほぼないので、言われた通りやればOKです。
レビューガイドラインはこちら。
3.1.2 サブスクリプション
アップグレード画面のお手本はここを参考に。
Human Interface Guidelines for Subscriptions
ちなみに、アップグレード画面は綺麗なデザインじゃなくても、最低限のルールに従って、そのままのUIKitを使うというお手軽でシンプルな方法でもOKです。
ポイントは、以下の事柄を書かないとリジェクトされるということです。
@価格を表示
@定期購読で何を得られるかの説明
@復元ボタン
@利用規約とプライバシーポリシー
@定期購読の注意事項を表示
(定期購読の管理画面へのボタンはユーザが簡単に確認したり、解約できるようにつけてるけど、ルールではなくてもよかったと思う。)
ちなみに、利用規約とプライバシーポリシーは、以前はリンクじゃなくて、購入画面に文章を書かないとリジェクトされたので、そうしてました。最近、なぜか、ここはリンクとして外部に表示できるのを作れと言われてリジェクトされたので、リンクに変えた。こういう感じで、微妙に審査員によって見解が違ったり、少しルールが変わったりとかあるので、へこたれないように頑張りましょう。
よくわからない時はVoicepaperの定期購読購入の画面と、AppStoreの説明文見てもらって参考にしてもらえたら。最低限必要な部分だけをシンプルに標準UIでやってるだけだから、これを真似するのは誰でもできると思う。
*参考写真
適正価格や月額・年額にするかの正解はない
月額で提供するか、年額で提供するか、それとも、どちらも提供するかで悩むかと思います。僕も悩みました。というか、むしろ今でも悩んでおります。これはアプリの性質、マーケット環境、時期など、ケースバイケースなので自分で考えるしかないですよね。
例えば、月額300円にしたら、年額は割引価格の3,000円で提供するとかがスタンダードだけど、アプリの種類によっては、ほとんどの人が年額買うから、年額オンリーの方がユーザが悩まないので結果的に良かったという例もある。(Overcastを作ってるMarcoがPodcastで話してた。)
行動経済学でいうアンカリング効果を狙ってわざと高い価格プランを設置して、相対的に安く見えるプランを買ってもらうとかもあるし、プランを少なくして悩む必要なくするという戦略もあります。
幸いなことに、Appleの定期購読は価格を変更しやすい設計になっていて、値上げする場合は新規ユーザのみ値上げ価格で、安い価格の時に購入してくれてる人は据え置きとかが簡単にできる。それもアプリをアップデートしなくてもiTunesConnectから変更できる。Androidだとアプリをアップデートしないといけないから面倒です。
ただ、後から価格を変更すると、「以前はこういう価格だった気がするのですが。。」という問い合わせがきて、その人にとって初めてみた時の価格が基準になるので、高くなってたら買ってもらえないという状況が多々起こります。
また、どっかのサイトでアプリを紹介されていると自分でそのサイトの更新はコントロールできないから、昔のままの価格がずっと掲載され続けるということが起こります。
かといって、適切な価格っていうのは試してみないとわからないので、最初から正解はわからない。色々、悩んで考えるしかないですね。
解約方法の問い合わせはすごく多い
定期購読を組み込むと、一回買い切りの時と違って、購読の解約サポート問題が確実に大きくなります。
やってみるとわかるんですが、定期購読の解約方法の問い合わせがめちゃくちゃ増えます。というか、サポートの問い合わせで一番多いのが有料版の契約やら解約やらになると思う。
これに対する対策としては、有料版の画面や、わかりやすいところに解約方法のヘルプをつけておくとかしかないところ。それか、サポートの問い合わせ画面で、最初からよくある問い合わせだから、有料版の解約方法のヘルプをドカンとつけておくとか。
幸い、iOS13からは、アプリをiOSのホーム画面から削除しようとすると、定期購読を保持するか解約するかのポップメッセージが出るようになりました。これで、アプリ削除したのに定期購読払い続けていたんだけど!っていう怒りの問い合わせがだいぶ減ると思う。
また、iOSとAndroidでアプリを提供している場合、iOS経由で有料版購入したまま、Android版にアプリを移行した時にどうするかという複雑なケースもあります。
無料期間や自動更新で誤解される可能性
iOSの定期購読には、無料トライアルという機能があります。最初の一週間、二週間、一ヶ月とか、無料期間を選べる。これはすごくいい機能なので使わない手はありません。
ただ、無料期間が終わると、自動的に定期購読課金の購読が始まるという部分をしっかり説明で書いておかないと、誤解される可能性は常にあるのが注意部分。
無料期間が終わると、「無料期間が終わったらお知らせがくると思ってたのに勝手に購入されてる!(怒)」という問い合わせが来る時があります。
ちなみに、一年単位での定期購読がある場合、使ってないのに一年後に自動更新されてました。返金してくださいという問い合わせも増えました。
これは、Appleの定期購読の仕様なので、Appleが仕様変更しない限りはなかなか難しい。なので、現状できることとしては、購入前の説明文をわかりやすく書いておくってことぐらいですかね。
でも、この、購入前のメッセージ、説明文ってそう簡単じゃないんですよね。あまり文章を書きすぎると、誰も読まないから結局意味がなくなるし、書かなければそれはそれで誤解される可能性もある。
なので、コンパクトな文章にして、なおかつわかりやすい日本語、気づかれるようなUIデザイン、なおかつ確認だらけでコンバージョンが落ちないようにも配慮しないといけない。とても難易度の高いプロダクトデザインセンスが問われます。
キャンセル理由の16%が支払いの問題でした
iTunesConnectの売上データを見ると、定期購読のキャンセル率とか、キャンセルの理由とかもグラフで分かるんですよ。
これ結構びっくりしたんですが、Taxnoteの定期購読のキャンセル理由、16パーセントぐらいが「支払いの問題」となっていた。Voicepaperはそこまで高くないけど、それでも5パーセントぐらいはあった。
支払いの問題って、「定期購読更新時にクレカで支払いできなかった」という理由がまず考えられると思う。または、クレジットカードが使えない人はiTunesカードとかをコンビニ買ってきてチャージして購入すると思うけど、そのチャージ分がなくなったとか。こっちの方が原因としては多そう。
幸い、Appleがこの問題への対応できる機能を最近リリースしました。
自動更新登録の請求の猶予期間を有効にする
これは、支払いの問題で定期購読を更新できなかったユーザに、アプリ側でしばらく猶予期間を設けて、すぐに有料機能が使えなくなって定期購読がキャンセルにならないようにすることができる。
正直、これは定期購読をiOSで組み込むならめちゃくちゃ重要な機能だと思うので、僕も実装して検証したいんだけどまだできておりません。
ドキュメント読む限りでは、一番気になるのが、サーバサイドが必ず必要なのかどうかってとこ。まだよくわかってないので、わかればこの記事を更新したい。ポップメッセージとかのUI周りは自分で色々実装しないといけなさそうな予感。
(知っている人は@umekun123まで教えてくれると嬉しい。許可頂ければ、この記事にクレジット付きでアプデさせてもらいます。)
こちら海外の参考になるブログ記事。
Supporting iOS Billing Grace Period
定期購読だとじわじわ売上が増えていくの?
定期購読だと、一回買い切りの時と違って、少しずつ売上が増えていくの?っていう質問もよく聞かれます。
僕は、Tanoxte、Voicepaper、Zeny、ListTimerと、AppStoreで出しているツール系のアプリ全てに定期購読の有料版を組み込んでるんだけど、必ずしもずっと売上が増え続けるってわけでもないです。当然なんですが。
成長している時は増えるし、成長が止まった時は横ばいだし、落ち目の時は減っていきます。
一回買い切りで提供していた時は毎月の売上が指標だったけど、定期購読になると、合計の定期購読者数が指標になってくる。(価格と期間が同じ場合に)
当然ながら、毎日新しく定期購読に加入してくれる人がいる影で、毎日、定期購読をキャンセルする人も出てくるので、新規加入数がキャンセル数を上回り続けないと成長しない。
毎日のダウンロードがちゃんとあって、ユーザにアプリが受け入れられて、価格が適正価格じゃないと、なかなか成長し続けない。
ずっとアップデートしてないと、だんだん横ばいになって、そのうち、定期購読者数が少しずつ減ってきたりというのも良くある。逆に、アプリを改善し続けると、毎日のダウンロード数が一定でも購入してくれる人の割合が増えて、少しずつ結果が出てきたりもする。
そして、一回買い切りの時より持続性のあるビジネスモデルなので、アプリを改善していこうというモチベーションも大きくなります。一回買い切り系だと、持続性がないし、長く時間がたってくると売上はよくて横ばいなので、最終的には次のアプリを作ろうかなというビジネスモデルになるんですよね。ここが全然違う。
精神的プレッシャーは確実に高まる
ツール系でも定期購読が使えるようになった昨今、それでも広告オンリー、もしくは有料版をつけても買い切りオンリーという選択肢の人も多いと思います。
この理由としてよく聞くのが、「いろいろとめんどくさくないから。」ってのが一番多い。これは、定期購読機能を実装するプログラミング的なめんどくささと、定期購読をつけることによる心理的な面倒さの二つがあって、後者の比重は少なくない。
つまり、基本無料で広告オンリーなら、「まあ、無料アプリだから気持ちが楽。」となるので、初めてアプリをリリースする時は基本無料で広告だけつけるってのはオススメの定番コース。
僕は最初からガチでビジネス作るぜみたいな青い気持ちで始めてたのもあり、はじめて作ったアプリから定期購読をつけたりしてましたが、これはただ単に珍しいケースだと思う。(当時はツール系は自動継続課金を利用できなかったので、いろいろ試行錯誤して断念した。)
そして、次に考えるのが、1回買い切りの有料版をつけるやり方。これは買い切りだから、まだ定期購読よりかはプレッシャー少ない。
なんで定期購読のプレッシャー高いかというと、毎月、毎年と有料版ユーザから何回もお金をもらうということは、ずっとメンテナンスをし続ける責任感も一緒についてくるということなんです。サポートの負担も、もれなく増える。
iOSのアップデートのたびに、アプリがおかしくなったり、最悪動かなくなったりすることはよくあるので、将来的にもアップデートし続ける気合がないと定期購読にはなかなか踏み切れない。
そういういろいろな理由を含めた「めんどくさそう」っていうことで、いくら定期購読の方が持続性はあるとは言っても、人によっては買い切りが合理的な判断なんですよね。
そうは言っても、最近は定期購読がスタンダードな時代になりつつあるので、使いたいけど悩んでいるという方は参考になれば幸いです。
*家計簿と読み上げのアプリ作ってます。自己紹介と過去ログはこちら。