世の中には「おお、そんなやり方があったか、賢いな!」とか、今までなかった新しい事をやってくれる人たちがいます。で、そんな新しく、なおかつ効果のある革新的なやり方をやるのは大抵新しいスタートアップだったり、まだ有名でない小さなアプリだったりする。
なんでだろうかと考えると、これはとても簡単なことでして、ある程度に規模が大きいものになると、リスクが高い事をやるメリットが、失敗した時のデメリットを上回らないからである。
例えば、iPhoneアプリで考えてみる。
もし自分のアプリの年間収益が10億円ぐらいあったとする。そんな時、iOS9の新しい機能を使って、新しいアイデアを試そうと思ってもなかなかできない。
iOS9の新しい機能を使うには、iOS7やiOS8にも対応したコードを書かないといけないし、その分岐コードが原因でバグが起きるかもしれないし、そもそも使いたい機能を使うためのライブラリを使うにはiOS7を完全に切らないと実装できないかもしれない。
となると、じゃあ新しいことに挑戦するため、いっそのことiOS7を切りますかとなる。iOS7の割合はもう全体の3パーセントだし。まあ、いいでしょ。毎回iOS7対応にかかるコストも軽減できるしと。
でも、10億円の3パーセントとなると三千万円になるから、「うーん、こんな効果あるかもわからない施策にこの儲けを捨てる価値はあるんだろうか。やめとくか。。」ってなってしまう。
こんな時、自分のアプリが小さな状態だったら、新しい事に挑戦しても失うものが少ないので、やりやすい。こんな具合で、失うものが少ない小さなスタートアップだったり、個人開発者のほうが結構おもしろくて新しい施策を試してることも多い。で、もちろんほとんど失敗するんだけど、その中でキラリと光るやり方もあったり。
例えば、野球に統計分析の手法を取り入れて成功したマネーボールみたいな例も、最初にやり始めるのは弱小球団が多い。失うものが少ないから新しい事に挑戦しやすいんだろうと思う。
最近、サッカーでもデータ分析を取り入れた実験をしているチームの話をクーリエジャポンの記事で読んだけど、これも弱小球団だからこそ実験的な事がしやすかったらしい。そもそも破産寸前のチームだったからお金出してくれるオーナーの意見を聞いてくれやすかったとも。
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これがレアルとかバルサみたいなチームだったら、「もし新しいやり方を試して、うまくいかなかった時の損失額を考えてみてくれよ。今までのやり方で勝ってるのに。。メッシの全盛期を君の実験で潰す気かね。。」と言われたら、そうですねってなるし。
もちろん、アップルみたいにデカい企業なのに、Macbook12インチでUSBポート削ったりと、守りに入らない挑戦をする例もあるんだけど、そういうのは僕みたいな小さな個人開発者には真似できない規模の話が多い。
となると、革新的なやり方を見つけるには、小さなスタートアップや小さなアプリから探したほう効果的となる。大きな会社がやってる事はもうみんなに知れ渡ってるし、当たり前の事だから競争優位もないという意味で。
どうやって探すか
でも、小さなスタートアップなんて数が多すぎて、とてもじゃないけど全部見てらんないよ。そもそも、そいつらの新しい施策はほとんど失敗するわけだしというジレンマにぶち当たります。
うーん、これはどうしたらいいんだろうか。
一つ考えたのは、急成長しつつ、新しい事に挑戦している会社やアプリに注目するというのがいいのかもと思いついた。
例えば、最近の例だと、Slackというエンジニア向けのサービスは、ユーザサインアップやら、いろいろな部分で新しい挑戦をしていて、なおかつ効果的だなと関心させられた例が多かった。こういうのは、もうとにかく使ってみて覚えるのが一番早い。
僕がなるほどなと思った一つとしては、Slackのアプリで最初にサインアップしようとした時、メールアドレスを入力したんですよ。そしたら、入力した後、ポップアップでもう一度そのメールアドレスを表示してきて、これで合ってますか?と聞いてきた。OKと押したら次に進む。
これは、すごくシンプルかつ賢いなあと関心してしまった。メールアドレスを二回入力させるより、まず入力した後、次に進むと画面いっぱいに今入力したアドレスが表示されて、ある意味、切り替わった頭で間違いがないか再確認できる。
アプリでも、家具でも、食べ物でも、なんでもそうだけど、良いものを体験すると、今まで想像できなかった領域を初めて知るってことが多い。トロの美味しさを、トロ食べた事ない外国人にいくら説明してもわからないだろうし。
真似すべきかどうか
優れたやり方はどんどん盗みまくるのがいいと思うし、みんながあまりやってない事こそ価値がある場合が多いんだけど、そう話が単純でない時もある。というか、単純でない時がほとんど。
なぜかというと、急成長してる企業がやってるからといって、新しいやり方と急成長の因果関係はないかもしれないからである。たまたま違う要素で当たったアプリであって、新しい挑戦をしているUIは全然その成長とは関係がないかもしれない。
むしろ、革新的なUIはマイナスだったんだけど、そのアプリの需要がそのマイナス面をはるかに上回る人気を持っているだけかもしれない。
そんな懐疑心を持ってしまったアプリがSnapchatのこの記事を読んだ時。
ちなみに、この記事は凄く面白い。Snapchatは従来のシリコンバレーのエリート達のやり方とはちょっと違っていて、会社の場所もサンフランシスコ周辺でなく、データより感覚を重視して、シリコンバレーエリート達の作ったものに不満な人たちの気持ちを汲み取るにはどうしたらいいかっていう、シリコンバレーの逆張りをついたという思想が面白かった。
で、すでに成功しているシリコンバレーの企業をそのまま真似しなかったのがよかったんだろうなというのは納得できたんだけど、Snapchatのあの独自UIまでもが成功の要因だったかはよくわからない。
よくわからないというのには意味があって、わからない時はわからないと判断を控えたほうがいいと思うからである。
よく言われるのは、SnapchatのUIはおじさんには使いこなせないけど、ティーンには使いこなせるというやつ。そうかもしれない。ティーンには、LineみたいなiOSの基本に忠実なUIより、SnapchatのUIのほうが使い易くて、ティーンはすぐ覚えるからそれでよかったのかもしれない。
でも、本当はiOSの基本に忠実なUIのほうが、やっぱりティーンにとっても覚える事が少なくて理解しやすく、たんにSnapchatの他の要素の魅力が大きいからその勢いで広がっただけかもしれない。
英語は全世界で使われてるけど合理的で優れた言語体系を持った言語は他にたくさんあるし、現在使われているキーボード配列だって、もっと合理的で使い易い配列にできたのに、もう広まった後だからいまさら変えられないという話はよく聞く。
だから、単純に流行ってるアプリが採用したUIだからといって、そのUIがアプリを流行らせた一つの要因だと決めつけてかからないほうがいいとなる。
というわけで、この話に結論はないけど、「無理に結論なんて作らなくてもよいんだよ」と、昔、小論文の添削してくれた先生が言ってたし、長くなったしこのへんで終わろうかなと思うけど、そもそも何の事を書いていたんだろうか。そうだ、革新的なやり方を見つけるにはだった。
うーん、どうしたらいいんでしょうね。新しい事に挑戦してるものをいろいろ見て、使えそうなら盗んでやるぞ、でも、本当によいかどうかはじっくり自分で考えるぞとすることぐらいでしょうか。
これはいいやり方と思ったあと、いやそうでもないという反証を考えて、それに耐えうるか何度も行ったり来たりするのがよいかな。
*家計簿と読み上げのアプリ作ってます。自己紹介と過去ログはこちら。