こんにちは。最近は毎日のように秋刀魚を焼いております。

さて、エドワードスノーデン自身による初の著作、Permanent Recordが9月17日に発売されました。この本、発売前からすごい話題になっていて、発売してからはAmazonでもすごい評判が良いし、HackerNewsでも話題になっていたので、僕も読んでみました。日本語版は来年に出るんじゃないだろうか。

ちなみに、スノーデンって誰?っていう人に簡単に説明すると、アメリカ国家安全保障局、NSAという組織で働いていた生粋のハッカーで、この組織がいかに国民のプライバシーをありえないレベルで侵害していたかを告発した人です。

NSA職員が、国民のメール、ネットの閲覧履歴、撮影した写真や動画など、ネットに繋がった情報のあらゆる全てを自由に閲覧していた内情を告発して、現在、亡命先のロシアに滞在している。

2013年にスノーデンが告発してから、世間のテクノロジー企業に対するプライバシー意識は大きく変わり、当時よりも遥かに個人データに対するセキュリティ事情はよくなったらしい。

もうすぐ読み終わるんだけど、この本は期待通り、すごい。自分の人生を捨てて祖国をなぜ告発したかの思い、葛藤が詳細に書かれていて、今までのスノーデンのドキュメンタリー映画やハリウッドで映画化されたものとは伝わってくる迫力が違う。

スノーデンはもともと非常に頭の良い人で、理性的な性格でもあるので、インタビューの時などはあまり感情を表に出さないんですよね。なので、こんな大それたことをしているのに、インタビュー時は冷静だったり、すでに決意をした後の、どこか淡々としている部分があって、もひとつ本人の感情や、覚悟、思いなどの面が伝わりにくかった。

その点、この本は自分自身が書いている文章というのもあり、告発しようと決心するまでの心の揺れ動き、恋人に対する思い、周りの人に迷惑をかけないでいかに告発するかの苦悩が詳しく書かれている。

僕が一番心奪われたのが、スノーデンが告発しようと決意するきっかけになった場面です。ここでは、いつものように、監視対象である人物の父親をカメラで監視していた。

その時ふと、自分の父親のことを思い出し、スノーデンは涙で溢れてしまったというんですね。国家の安全保障という名目とはいえ、他人のプライバシーを完全に侵害している今の自分をもし自身の父親が見たら必ず失望するだろうと。

そこから、スノーデンはどのジャーナリストにどう告発するか、どうやって証拠となるデータを持ち出すか、どの国が亡命先として有力かなどを綿密に計画していく。

この過程もリアルでもちろん面白いんだけど、この本の醍醐味は、一人の優秀な人間が自分自身の倫理観と葛藤して、実際に現在の恵まれた人生を捨てて告発するまでの心の揺れ動きを文章にしているところ。

人間、捨てるものがない時は思い切った行動に出やすいんだけど、スノーデンみたいに若くして年収2千万以上もらって、ハワイという最高の気候の土地に住み、技術的にも最もハイレベルな国家のハイテク部門で働くという地位を捨てるのは簡単ではないのは間違いない。

当初、スノーデン自身もNSAの業務をスタートするにおいて、自分自身を納得させながら仕事をしていたのを認めているし、あまりにもひどいプライバシーの侵害にだんだんと耐えられなくなってきたと。

こう考えると、法律なんてものは時代や状況によって大きく変わるので、人間の倫理観というものは非常に重要なものだってわかりますね。

そういえば、AIに倫理観をいかにインストールして、人間が倫理的に踏み外しそうな時にAI側が倫理的なアドバイスをくれるようにしたいという研究をMITはやってるらしい。そのことを書いていたJoiItoはスキャンダルで辞任してしまったが。。

ちなみに、NSA職員はどのレベルまで国民のプライバシーを侵害していたかというのは本当にやばい。本来、容疑者の盗聴などは裁判所の許可などが必要になるはずなんだけど、法律自体がインターネットが普及する前に作られたものから、NSAはルールを巧妙にハックしていたらしい。

NSA職員は、重要な容疑者ではなくとも、例えば街で気になる女の子がいたら、その人のWeb履歴、メール、電話履歴、どこに行ったか、誰と交流があるか、スマホの写真、動画、など、全てを自由に閲覧できていたらしい。やばすぎ。

ちなみに、スノーデンの告発以降、現在のiPhoneなどはスマホ本体から暗号化する仕組みを組み込むなど、IT企業自身も国家が簡単に利用者のプライバシーを覗き見できないようには努力していることも詳しく書かれていて、テクノロジー視点で読んでも面白い。

そういえば、スノーデン告発前とか、Facebookが今より利用者のプライバシーをガンガン垂れ流していた時期で、Facebook情報を抜き取るアプリとかも問題になっていた気がする。

ザッカーバーグも当初は「人に見られて困るなんて言っている人はやましい事があるからだ。」とか言っていたのを覚えてる。当の本人は、監視カメラ付きの高い壁に囲まれた豪邸に住んでいるのが突っ込まれてたけど。

なぜプライバシーは大切なのか

おそらく、この本のキモとなる部分だけど、スノーデンがどういった信念に基づいて、プライバシーが守られるべきなのかを語ってます。

端的にいうと、プライバシーと自由とは、相互依存であり、市民の自由を守るためには、プライバシーを守らなければならない。プライバシーが守られない社会では、市民の自由が侵害されると言っている。自由が侵害される社会とは、平等な社会ではなく、独裁主義的な社会になってしまうと。

これだけ聞くと、なんでプライバシーがそこまで関係あんの?と、もひとつピンとこないかもしれないので、スノーデンの語るロジックを抜粋してみる。

“In an authoritarian state, rights derive from the state and are granted to the people. In a free state, rights derive from the people and are granted to the state. In the former, people are subjects, who are only allowed to own property, pursue an education, work, pray, and speak because their government permits them to. In the latter, people are citizens, who agree to be governed in a covenant of consent that must be periodically renewed and is constitutionally revocable.”

独裁制のもとでは、権利は政府から市民に与えられるものとなる。自由社会では、権利は市民から政府に与えられるものとなる。前者では、政府が許可する限りにおいて、市民はものを所有したり、教育、仕事、信仰、発言を求めることができる。後者においては、市民の同意においてのみ政府が介入でき、その取り決めは定期的に精査され、見直すことが憲法によって保証される。

~中略~

“But citizens of democracies don’t have to justify that desire—the state, instead, must justify its violation. To refuse to claim your privacy is actually to cede it, either to a state trespassing its constitutional restraints or to a “private” business.”

民主社会の市民はプライバシーを守る権利を正当化する必要はなく、その侵害に対して声を上げなければならない。プライバシーの侵害に抵抗しないということは、憲法上の制限された領域に不法侵入する政府やプライベートビジネスに、プライバシーを譲渡することになる。

“There is, simply, no way to ignore privacy. Because a citizenry’s freedoms are interdependent, to surrender your own privacy is really to surrender everyone’s. You might choose to give it up out of convenience, or under the popular pretext that privacy is only required by those who have something to hide. But saying that you don’t need or want privacy because you have nothing to hide is to assume that no one should have, or could have, to hide anything—including their immigration status, unemployment history, financial history, and health records. You’re assuming that no one, including yourself, might object to revealing to anyone information about their religious beliefs, political affiliations, and sexual activities, as casually as some choose to reveal their movie and music tastes and reading preferences.”

プライバシーとは絶対に無視できないものである。プライバシーと自由は相互依存しており、自身のプライバシーを放棄することは、すべての人々のプライバシーも放棄することになる。利便性や、何か隠すことがある人だけがプライバシーが必要なのだという理由で、プライバシーを放棄することがあるかもしれない。しかし、やましいことがないからプライバシーはいらないのだと主張することは、すべての人が、入国管理情報、失業期間、資産状況、健康記録を含め、何も隠してはいけないということになる。映画や音楽、書籍の好みを公開するぐらい気軽に、自分の信仰している宗教や政治関係、性的指向を公開したいと思う人はいないだろう。

“Ultimately, saying that you don’t care about privacy because you have nothing to hide is no different from saying you don’t care about freedom of speech because you have nothing to say. Or that you don’t care about freedom of the press because you don’t like to read. Or that you don’t care about freedom of religion because you don’t believe in God. ”

結局のところ、隠すことがないからプライバシーはいらないというのは、何も言うことがないから発言の自由はいらないというのと同じである。また、読むことが好きでないから報道の自由はいらない、神を信じていないから信仰の自由はいらないということになる。

こういった信念のもとに、スノーデンは政府のプライバシー侵害を告発することになるんですが、この本にはスノーデンの博識さ、知的さが垣間みれます。

どっかのインタビューで、小さい頃から読んでいた哲学書が自分の人格形成に役立ったと言ってた気がするけど、残念ながらどういった本を読んできたかには本書には言及がなかった。

ちなみに、この本は発売してすぐにアメリカ政府に訴えられて、その直後にベストセラーになったらしい。


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