先日、マイケルルイスの傑作、世紀の空売り原作の映画がそれはもう面白かったので、数年前に読んだ原作を読み直してみた。

日本では、マネーショートという微妙な名前で3月公開らしい。

そしたら、一度読んだ本のはずなのに、もうほとんど細かい内容忘れていて、かなり楽しめた。映画見た後に、登場人物の顔とかを検索したりしてたのもあり、イメージがあったのも良かった。

世紀の空売りは、サブプライムローンで相場が崩壊する方に賭けて、数十億、数百億を手にしたヘッジファンド達のノンフィクションですが、なんといっても一番魅力的なのは義眼のバーリです。

映画でも、こいつだけずっとシャツと短パンで、トレーディングフロアで苦悩したり、ドラム叩いたり、ヘビーメタル聴いてストレス発散したりしてるんだけど、ひたすら孤高なんですよ。

で、金融崩壊で大金稼いだ他のヘッジファンド達と違って、バーリだけが、一番最初に、自分一人に力でその投資手法を発見した。

話の内容をちょっと説明すると、サブプライムローンが崩壊する方に賭けるアイデアをウォール街に吹き込む、ドイツ銀行のリップマンという人物がいるんです。

で、この人が、「ああ、このままだと住宅市場が崩壊するぞ。そして、住宅市場が崩壊する方に賭ける方法を見つけた!この商品をヘッジファンドに売りまくるぞ」と考え、ウォール街のヘッジファンド達に売って回ったんです。

だから、この金融危機で大儲けし人達は、直接的、間接的に、このリップマンの話からアイデアを得た。

じゃあ、何でリップマンはそんな儲け話を他人に教えてあげたかというと、自分でヘッジファンド設立して投資するには時間が足りないからという理由だったらしいが、本当のところはわからない。

自分の読みには自信を持っていたけど、銀行員という立場の方が、儲けは少ないけど最悪のケースのリスクは低いと考えたのかも。

ただ、バーリだけは、自分の調査で崩壊を予測し、どうすれば住宅市場に空売りできるかも発見したんですね。

だから、バーリさんすげえな、リスペクト。

っていうことを書きたいわけじゃないんですよ。

逆に、そんな頭のいいバーリも想定できない出来事がたくさん起こる。そこが、この本の面白いところで、自分の予想が当たっても、上手くいくとは限らなかったというところです。

まず、バーリがなんで株式投資に入ってきたかも面白いので、そこから書いてみる。

ブログ書いたらスカウトされる

バーリのバックグラウンドは、ウォール街でもなんでもなく、研修医。ここがまず面白い。

小さな頃に片目を失い、もともと内向的な性格だったんだけど、何かに対する集中力だけは特筆すべきものがあり、簡単に医者の試験に合格する。

でも、あまり医者の世界に興味を持てず、株式投資に関するブログを書いてた。その時、学費ローンの借金は1000万ほど。

そしたら、そのブログが評判になって、投資会社のやつに見出され、突然ファーストクラスのチケットと一緒に投資会社のオフィスに呼ばれ、いきなり数十億円規模のファンドを任されることに。

いやあ、ブログの力ってすごいですね。(笑)

最終的にバーリは数百億円稼ぎ出すけど、業界経験0の人が、ブログ書いてここまで成り上がった話はなかなかないんじゃないか。

そんなバーリが想定できなかった事態

さて、バフェット信者でバリュー投資家のバーリさんは、そのあと、順調に成績を伸ばして顧客の信頼を勝ち取るわけですが、サブプライムローンが崩壊することを予測し、一点空売りのポジションを取ることになる。

空売りっていうのは、市場が下がる方に賭けるんですよ。

で、何がしんどいかというと、市場が下がり始めるまでは、ずっと損をし続けるんです。だから、精神的に辛いと言われる。

バーリは自分の投資に確信を持っていたから、もちろんそれは覚悟の上だったんだけど、彼が十分想像できなくて、最も辛かったのが、信頼されてたはずの顧客からの猛反発だった。

いくらバーリがメールで自分の投資戦略を説明しても、年に18パーセントとか下落するファンドに我慢できない投資家達が、「お前いますぐこのポジションを辞めろ。」とか、「お金を返せ」とか、猛攻撃してくるわけです。

この辛さが、原作では細かく書かれてあって、ここが一番の見所。

予測が当たっても綱渡り

ファンドの投資家達のプレッシャーは実際のところ、バーリの賭けを崩壊させる危険性を十分持っていた。

というのも、バーリが買っていた金融商品の規約の中で、買い手のファンドの規模が大きく下がってしまった場合、契約は破棄になるという条項があった。

そして、バーリのファンドの顧客達が、損を出していくファンドに耐えられず、お金を引き上げるとプレッシャーをかけてくる。

そこで、バーリは、自分のファンドにある、「特定の取引に関しては、長期的な視野が必要だから、顧客は2年間は解約できない。」という規約を盾にして、ファンドを守ろうとする。

これまた、顧客達が怒る燃料になってしまい、2年間の期限がきたらすぐ解約しようとする人達が大勢。

このままでは、住宅市場が崩壊して自分の賭けが成功する前に、顧客離れによって全ての計画が崩壊する危険性が出てくる。

そして、また違う規約を見つけて、「特殊なポジションの賭けの場合、顧客が引き出せない別口座にお金を預けられる。」という裏技を実行し、また顧客がお金を引き出せないようにする。

それに激怒した、バーリのファンドの顧客は「訴えるぞ!」とメールが殺到し、バーリを見出して、ファンドマネージャーにした産みの親みたいな人物もバーリを批判し始め、バーリさんは大変ショックを受けるわけです。

誰も俺のことをわかってくれない。。ってやつですね。

頭で想像できない部分の不確実性

まあ、後から振り返ったら、ちゃんとコミュニケーションとって、こういう事態も想定しておけよとか、やっぱ頭良くてもコミュ障の人はこうなるよね、とか言うのは簡単なんです。

これは市場崩壊に対する保険みたいな取引だから、何かあるまで損し続けるのは当然なんですみたいなイメージで売ればよかったとか。(実際、バーリの1年後に同じ賭けを始めたジョン・ポールソンはそうしたらしい。)

でも、自分が想定できない、後からじゃないとわからない分野の不確定要素がガンガン出てきて、自分の予想が当たっていても、最後まで上手くいくかはわからないのが世の常。

そこが、この本は臨場感たっぷりで書かれていて面白い。

スタートアップのアイデアも、「これからはこういう世の中になる。こういうものが流行る。」という予測が正しかったとしても、それを実現するまでの障壁はまず想像できないんだろうなと思った。

ちなみに、最終的に住宅市場は崩壊して、バーリのファンドは大儲け、顧客も儲かるんだけど、今まで批判してた人たちからの弁明は何もなく、静寂が訪れたとか。


*家計簿読み上げのアプリ作ってます。自己紹介と過去ログはこちら